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王国の緊急事態ですのよ
あの茶番劇から一夜が明けましたのよ。
結局、アストレアが事前に予約していた宿に泊まる事になったけど、これがブラントン達と同じ宿だったわけですわ。
もちろんアズミルが騒いだ所で、私がブラントンの部屋に行く事なんてありませんけれど。
ふぅ……ブラントンの馬車を見送るだけなのに正直変な気分ですわね。何て言うか少し寂しさを感じますわ。
少しね。ほんの少しですのよ。
「じゃあフィエナ。今度は君が十二歳になった時に迎えに行くからね」
「仕方ないから、お待ちしてあげますわ」
「来るなブラントン!」
「こら!アズミル!ブラントン君は、フィエナちゃんの大事な人なのよ。そんな事言わないの」
アズミルはいつまでこれを続けるのかしらね?そして、何だかんだで手は振るのですわね。ツンデレかしら?
「さぁ。僕達も国へ帰ろう」
「…………」
アハッ。アストレアには誰も返事しませんわね。全員無視がパルムドンまで丸三日続くのかしら。
精神的に辛いでしょうが、当然の報いですわね。
そういえば帝国との友好的関係は、少し話が進んだそうですわよ。理由は皇帝が一連の余興を評価したそうですわ。
パーティーが盛り上がったのは間違いないのだけど。当事者からしてみれば余興でもなんでもないわ。
皇帝に言わせれば、楽しければそれで良かったようですけど。
それにしても帰路について二時間。相変わらず馬車旅は暇ですわね。
「フィエナちゃん。これ今、帝都で流行ってるお菓子なんだって。一つあげるわ」
「じゃあ僕がフィエナにあーんしてあげるね!」
「いや、結構。自分で食べるわよ」
「お菓子だって?ミレーナ。じゃあ僕にもくれよ」
「………………」
シーンとしましたわね。切ないですわね。アストレアを見てるとイジメにあっているようですわね。
でも、いじめられたのは私の方ですのよ。
パルムドンに帰ったらお母様とお父様、それにお祖父様にも報告してアストレアの立場を無くしてあげますから!
あら……?馬車が止まりましたわね。
「王太子殿下。間も無く帝国の国境ですが問題が出ました。一度外に出てくださりますか?」
何かあったのかしら? ――――あら、これは帝国の騎兵隊かしら。完全に囲まれてますわね。
「アストレア王太子殿下に窃盗の容疑がかかっております!失礼ですがカプリコ公爵様の命により、荷物を調べさせていただきます」
「ちょっと。どういう事だ?僕が一体何を盗むと言うのだ?何かを盗む程パルムドンは困っていないぞ!」
まぁ。王家を相手取って窃盗容疑とは、随分とふざけた扱いですわね。いくらアストレアがクズ王子でも、窃盗なんかする理由はさすがに無くてよ。
カプリコの命令って事は、何か有らぬ疑いをかけて苦し紛れの仕返しって所かしらね?
「あったぞ!これだ!」
何がありましたの? ん!?宝石?ネックレスかしら?そんな大した物には見えませんわね。
でも、どうしてアストレアのバックから出てきますの?
「それは、カプリコ公に頂いた物だぞ。盗んでなど……」
「カプリコ公爵様は、最後にアストレア王太子殿下と会った後から見当たらないと仰っていました。差しあげたなどと、その様な事は一言も仰っておりません。悪いですが確認の為に皆様にはサリュースに戻っていただきます」
◇◇◇◇◇
再び帝都へ逆戻りですのよ。
そして、城内は昨日までパーティーが行われていて賑やかだった場所とは思えない程の別の空気が流れていますわね。
おおかた、カプリコが何か仕掛けたのは想像に容易いのですわ。ただ、そう簡単な問題ではなさそうですのよ。
「昨夜。何者かが寝室に侵入した。どうやらワシを暗殺しようとしたようだ。だが、そんな者に易々と命を取られるワシではない」
冷静に話す事でもないと思うけど、さすが、この皇帝陛下はそういう事態にも動じませんのね。
そういえば皇帝には、今までにも何回か暗殺未遂事件があった事は私でも知っていますのよ。なにせ、あの傲慢な態度で恐怖政治ですものね。
でもまさか、昨夜もそんな事があったとは驚きですわ。
「当然、返り討ちにしてやろうと抵抗したわい。そして、その何者かは逃げる時に短剣を落としていきおった。これに見覚えがあるのではないか?アストレアよ」
「そ、それは!皇帝陛下。それは私の短剣ではありません!私はちゃんと持っております」
「ほう。ではカプリコ公に尋ねる。お主が送った兵士から、その短剣の存在がアストレアの持ち物から確認出来た。という報告はあったのか?」
「いいえ。全て押収しましたが、その短剣は見付かってはいないようです」
あの短剣はパルムドン王家の短剣!?どうして?ありえませんわ!まさか、本当にアストレアが?
いや。偽物の可能性もありますわね。本物なんて、荷物を押収される時に取られたら分かりませんし。
「そんなバカな!短剣は確かに……」
「代わりに、アストレア王太子殿下の持ち物からこれが出て来たようです」
「カプリコ。それは何だ?ペンダントか?」
何よ、皇帝陛下も知らないじゃない。あれは何なのかしら?あら……何かポロポロと落ちていきますわね。宝石が外れたのかしら?
「これはこれは。貼り付けてあったわけか……なかなか手の込んだ事を。アストレアよ。貴様こうなる事まで予想して、鍵と分からぬ様に偽装しおったな?そうでなければこんな事をする必用がないのだからな」
「滅相もない!皇帝陛下。私は神に誓って何もしていません!それはカプリコ公から譲り受けた物で……」
「なんと。私に罪を着せるつもりですか?アストレア王太子殿下。私は、そんな大事な鍵を渡したりしませんぞ。皇帝陛下に何かあった時、直ぐ駆け込む為には陛下の寝室の鍵は必用ですからな」
寝室の鍵? カプリコは、暗殺に入り込む為に鍵をアストレアが盗んだと言いたいのかしらね。でも、考えてみればそれが鍵だと分からない時点であの兵士達は、当たり前のようにアストレアに容疑を被せたのではなくて?
つまり、これは完全に大勢が絡んだ芝居だわ。
でも、口では何を言っても無駄。王家の短剣に寝室の鍵では証拠がありすぎますわね。
トカゲに見事に嵌められたのですわ、アストレア。
「そんな!確かにカプリコ公が僕に!その短剣だって、良く見れば本物とは少しちが……」
「これ以上私を愚弄するのは許せませんな!そもそも、皇帝陛下に近付きたいと私に申し出てきたのはアストレア殿でしよう!最初から、パルムドンを支配しようとする皇帝陛下の暗殺を考えていたのではないのですか!?」
あらあら。口調が変わりましてよ。まぁ動機までありますものね。これはチェックメイトですわ。
「バカな!僕は、友好関係を築くつもりで……」
「もうよいわ!アストレアを牢に入れよ!」
「僕は何もしてない!これはカプリコ公の罠だ!――――くそっ!僕に触るな!」
これは分が悪いですわね。パルムドンが帝国に支配されそうな立場だったのは事実ですし、完全にここは敵地ですもの。
そもそもパルムドンの弱味を握る為に事前に仕組まれていたとも思えてきますわね。
……ってバカ!そこで剣を抜いたら、カプリコの思う壺ですわ!
「本性を現したぞ!アストレアを拘束しろ!」
本当にバカ王子ですわね!時間をかければ何とかなったかもしれませんのに。これじゃ言い訳も出来ませんのよ。
「王太子妃。ミレーナと言ったか?これは重罪だぞ!アストレアは帝国でその命を一旦預かる。この責任をどう取るつもりなのかパルムドンの国王をここへ連れてこい。場合によってはパルムドンへの武力行使もありえると思え!」
「申し訳ありません。皇帝陛下!仰せのままに!」
ミレーナの対応も意外とアッサリしたものですわね。アストレアへの感情は、私が思ってるより無いのかもしれませんわね。
しかしこれはパルムドンにとって重大な問題ですわね。
アストレア?
彼は別にどうでもいいのですわ。自業自得ですもの。
◇◇◇◇◇
さすがにパルムドンまで帰ってきたら、アストレアの事が王宮で騒ぎになりましたわね。国王陛下や女王陛下にしてみれば頭の痛い問題ですものね。
出来の悪い王太子がやらかしてくれたのですから。
「フィエナお嬢様。騒がしいですが何かありましたか?」
「エレナ。私には何も言えませんわ。私も王家の会談には混ぜてもらえないようですしね」
「フィエナお嬢様はまだ十一歳ですから。仕方ないですね」
「そういえばごめんなさいエレナ。チャールズ先生の話。それどころじゃ無くなるかもしれませんわ」
「そうですか。余程重要な何かが向こうであったのですね」
うん。まぁ……あなたの恋バナよりは重要ですわね。そんなに寂しい顔をされるとも思いませんでしたのよ。
何も考えないメイドが一番幸せかもしれませんわね。
「ところで、ブラントン王太子殿下にはお会いになれました?」
「あ。う、うん……まあね。会えましたわよ」
「そうですか。それは良かったですね!……あら、お嬢様。こんな時間にお客様が来たようですね。下に馬車が止まりました。まさかフィエナお嬢様の王子様じゃありませんよね?」
「ば、バカな事言うんじゃありませんわ!私をからかうんじゃなくてよ」
で、誰が来たのかしら?見た事ある馬車ですわね。
――――え!? どうして!?
レオドール公爵……。お父様?
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