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皇帝はお遊戯がお好きですのよ
何だか一気に居心地が悪くなりましたわね。
あのトカゲ、何て事をしてくれますの!
「おお、君がハウルス様の婚約者か。可愛いらしいですな」
「ハウルス様も、なかなか隅に置けないですわね」
「とてもお若くて美しい女性でハウルス様が羨ましい」
「本当に、めでたい席に立ち会えましたわ」
おや。もう完全に婚約者確定してるじゃないの。
いやだわ。早くここから出たいけど、ブラントンにだけはちゃんと話をしないと。
まさか、愛想尽かして怒ってたりしませんわよね?
「フィエナ!こっちだよ」
「あ!ブラントン!探しましてよ!」
「それはこっちのセリフだよ。とりあえず、人目につかない端の方に行こう!」
もう、どうして最初からこうして手を繋いでいてくれないのかしら。まったく、誰のせいで嘘までついたと思ってるのかしらね!やれやれですわ。
私を放って置くからこんな事になっているのがわかってますの?
「フィエナ!あれはどういう事なんだ!?」
「ごめんなさい、ブラントン。あれは全部ハウルス様が勝手に言っている事なのよ。本を正せば、私が会場に入る為に仕方なく門番の前で婚約者のフリをしただけだったのですわ」
「どうしてそんな嘘を。ここはフィエナがそこまでして来るような場所じゃないだろう」
「だってブラントン!それは……。そう。ちょっと入って見たかっただけですわ!それに、あんな口約束は無効ですわよ」
「フィエナ。君は何も分かっていないよ。あの皇帝陛下自らが大勢に高々と告げたんだ。それが嘘だと分かったらどうなると思ってるんだ!フィエナには、その場だけの口約束でも。それを覆す事は、皇帝陛下をホラ吹き扱いするのと同じ事なんだぞ!そんな事したら君は……」
何よ……なに。何なの!私が悪いの?私は、あなたにドレス姿を見せたかっただけなのに。
そうね。まぁそうだわね。ブラントンが怒るのもしょうがないですわ。私が嘘をついたのがダメなのですから。
ハウルスと腕を組んだり、婚約者のフリをした時点できっと私は浮気者なのですわね。
「ごめんなさい……」
「いいよ。とりあえず……って、おい!フィエナ!?何処行くんだ」
私、もうブラントンの顔が見れませんわ。
私は本当にバカな事をしてしまいましたのね。
きっと神様が怒っているのだわ。私は前世からずっとイヤな女ですもの。生まれ変わっても、イヤな女なのは変わりませんものね。
「あぁ!フィエナちゃん!? あの話はどういう事なの?ハウルス様とは…………って、どうしたの?フィエナちゃん。泣いてちゃ分からないわ」
「ミレーナ……私……どうしたらいいの?」
ミレーナにこんな事を話す事になるなんて皮肉だわね。彼女は私からアストレアを奪った女ですのに。
いや、奪ったとも限らないわね。最初からアストレアはミレーナに気持ちが移っていたのですもの。
メリアンナが階段を落ちていなかったら、彼女がどうしてたか何て私には分からないのですもの。
「そんなのはフィエナちゃんが諦める必要はないのよ。私と一緒にちゃんと皇帝陛下に話しましょう!悪いのはハウルス様なのだから!きっと皇帝陛下なら分かってくださるわ」
ミレーナは、あぁ言うけど。皇帝陛下を見た事ないから言えるのよ。
実際にあのオーラの前に立って何かを言う事なんて……ほら。ほら。いるわよ。
もはや神の様なオーラだわ。
「皇帝陛下!お話があります!」
ひぇ!ミレーナはバカなの!?空気が読めないのかしら!もう少し下手下手でいきなさいよ!
「ミレーナ!どうした?」
「あぁ、アストレア。いたのね。フィエナちゃんの事で皇帝陛下にお話があるの」
「ミレーナ。今は俺が皇帝陛下と今後の話をしている所だぞ!」
あらあら。話が早いわね。さすがにチャンスはどんな状況でも逃がさないっていうガツガツした男ですわ。
大した力量も無く、産まれた順番で王太子になれただけのバカ王子のある種の才能かしら?
「良い。そなた確か、アストレアの妻だな?唐突にワシに話かけてくるのだから重要な話であろうな?」
「はい!ハウルス様とフィエナの婚約は無効です。何故ならば婚約は、ハウルス様が勝手に決めた話だからです」
あー、あー。単刀直入ですわね。周りの時間が止まっているかの様ですわね。コワイコワイ。
「ほう。それはどういう事かな?ハウルス?」
「いえ。皇帝陛下!おそれながら言わせて頂くと、私とフィエナの婚約は決まっていた事です。フィエナ自身が、そうだと答えたのは門番や他にも。何人か聞いていただければ分かる事です」
本当にムカつくやつですわ!最初からそれが目的で、私に返事させていたのですわね!私が婚約解消しようとしてるみたいじゃない!
「お言葉ですが陛下。何を隠そうこの婚約は、パルムドンの王太子殿下も認めている事実なのですから。私、カプリコが息子に変わって証明いたします」
は!?今、何と言いましたの?聞き間違いかしら?アストレアは婚約の話は絶対に無いと言ってましたわよね?
「アストレア?フィエナちゃんとハウルス様の婚約の話は絶対に無いと言いましたよね?どういう事なの?まさか、フィエナちゃんを売ったの?」
「ミレーナ。これはパルムドンの為なんだ」
こ、怖い。ミレーナのあんな顔。私、初めて見ましたわ!ルアンナの時といい、たまに悪魔かと思う時がありますわね。
でも、当然ですわよね!最初からアストレアは承諾していたって事かしら?どこまで最低なの!
「アストレア!あなたって人は、またそうやって人の人生を勝手に……」
「待ってくれミレーナ。これは必要悪だ。フィエナも、そんなに睨まないでくれ。これによってパルムドンは…………ぐはぁ!!、ふ、ふぃ……えな」
思ったよりも綺麗に腹へ蹴りが入りましたわ。
まぁ情けないですわ。十一才の小娘に蹴られたくらいで、うずくまってしまったのね。動けないのね。アホだわ。マヌケだわ。死ねばいいのよ。
「おぉ。あんな可愛い子がキレのある蹴りを!」
「まぁ。はしたないですわね」
「それにしても今のは綺麗な回し蹴りですな」
「何か習っているのかしらね?」
老師様に感謝しなくちゃいけないわね。しかし何か、この一帯だけ変な空気になってしまいましたわ。
ミレーナだけは笑いを堪えているのが逆に怖いですわね。
「ハッハハハハ!ハッハハハハ!」
え?皇帝陛下。気でも触れたのかしら?
こんなに笑う人ですのね。
「面白い!大変面白い余興であったぞ!フィエナ!おぬしなかなかの武闘家であるな。こんなに笑ったのは久しぶりだ」
「それでは皇帝陛下。今回のフィエナとハウルス様との婚約は無かった事に……」
「たわけが! 女!パルムドンの王太子妃ごときがワシに意見するか!そんなモノはお前達の都合であろう!ワシが皆の者に宣言した事を撤回しろと言うのか!ワシはシュラード帝国皇帝ぞ。ワシの発言に間違いは無い!ワシを嘘つき呼ばわりする者は死を持って償わせてもよいのだぞ」
そんな……。やっぱりブラントンの言った通りなのかしら。これ以上は何を言ってもムダですの?
「もちろんです皇帝陛下!この私、カプリコが皇帝陛下を嘘つき等とは呼ばせません!フィエナ嬢も一時の迷い。すぐに息子と婚約の儀式を行い、このパーティーを意味あるモノに致します。 そうだろ?フィエナ嬢。君は間違いなく息子、ハウルスの婚約者なのだからね」
ごめんなさいブラントン。最初から私には幸せになる権利なんて無かったのだわ。でもハウルスと婚約するくらいなら私は死んだ方がマシですのよ。
せめてこの身は誰にも捧げないから。私を許してくださいな、ブラントン。
「もう心までハウルスの婚約者になっちゃったの? ほら。涙を拭きなよフィエナ。可愛い顔が台無しだよ」
「ぶ、ブラントン……?」
「クリムゾアの人間は諦めが悪くてね。昔からそうなんだって祖父が言ってたよ。取られたら取り返せばいい!領地でも。花嫁でもね!」
何言ってるのかしらブラントンは。いくらなんでも、私の為に帝国と戦争するわけにはいきませんわ。
「皇帝陛下。ちょっとよろしいですかな?」
「おぉ。クリムゾアの王ベルギートか。パール王太子の件。まこと残念だった。とても優れた人間だったのにな」
「皇帝陛下にそう思ってもらえれば息子も浮かばれましょう。それより一つ頼みたい事がありましてな。実はパルムドンのフィエナ嬢は、うちの孫であるブラントンの婚約者でもある。勿論、これは正式ではないのですが。何故ならばフィエナ嬢の国パルムドンでは、十二歳までは婚約は出来ないのですからな」
「ほう。これはどうしたものだ。ならば、最初から誰とも婚約は成立していないと言うのか?クリムゾアの王よ。それならば余計に問題だぞ。ワシの発言の落とし前を誰がどうつけてくれようか」
何よ。結局、誰かが裁かれるだけじゃないですの。
この問題を持ち出したハウルスと私、両方かしら?下手したらパルムドン王国全体の問題ではなくて?
いっそ、アストレアが裁かれてくれれば万事オッケーなんじゃないかしらね。あぁ、こんな事考えたらまた罰が当たるわね。
「いえいえ。皇帝陛下は何も嘘は仰っていない。これは最初から全て皇帝陛下が考えた余興だと、私は思っておりますゆえ」
「ほう。何が言いたいのだ?」
「互いに正式ではないとはいえ、婚約者である事は変わりない。ならば、その正式な未来を誰が得るか……お遊戯で決めれば良いのではないですかな?ここまでは皇帝陛下の大掛かりな前振りだったと言う話ですよ」
「面白い。面白いぞクリムゾアの王よ!して、その遊戯も勿論それ相応のモノでなくてはならぬぞ」
「えぇ。えぇ。決闘など、いかがでしょう?ハウルス殿と、うちのブラントンの本気の戦いなど。ホッホッホ」
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