一番のバカは私でしたのよ

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一番のバカは私でしたのよ

 決闘?ブラントンのお祖父様は一体何を考えているのかしら。決闘なんて、十二歳のブラントンが不利に決まってますわ! 「なるほど。それは面白いクリムゾアの王よ。ルールはワシが決めるぞ?」 「皇帝陛下の思うままに」 「よし、では……。皆の者に告げる!何とクリムゾアの王太子ブラントンが先にフィエナに目をつけていたそうだ。幸い彼女は正式な婚約は来年まで出来ないと言う。さて、これは困ったぞ。二人の男が一人の女性との正式な婚約を巡って争いになってしまうではないか!ここは一つ、帝国らしく剣術試合にて、どちらが婚約者に相応しいか決着をつけようではないか!」  わざとらしい茶番劇が始まりましたわね。こんなんでも周りの者は面白そうに騒ぎ出すのだから。  よほど帝国の人間は窮屈な日々を過ごしていらっしゃるのね。帝国で暮らすのも大変ですわね。 「何だこれ、皇帝陛下の仕掛けだったのか」 「まぁハウルスに婚約者なんて可笑しいと思いましたわ」 「陛下のお遊戯は毎年どんどん手が込んできますな」  まぁ色々な意見が飛び交ってますわね。でも結果的には皇帝陛下の余興だと判断した人が多そうですわ。  皇帝陛下の性格を考えるならば、確かにこういうお遊戯をやりそうな気もしますけれど。聞けば去年も実際に剣術での賭け試合があって、相当賑わっていたらしいですわ。  さっきまで格闘技の賭け試合が行われていた所で剣術試合が行われるそうですわね。 「ブラントン。あなた相当不利じゃないの。相手はハウルス。帝国のリザードマンと呼ばれてる大陸剣術大会の常連ですわよ。そもそも年齢的にも全然違うのに」 「へぇ……帝国のリザードマンねぇ。そのまんまじゃないか。はははは」  まぁ。腹を抱えて笑っちゃって、呑気なのよブラントンは!確かに最初は私も同じ事思いましたけど、これは笑い事じゃありませんのよ。  大陸の剣術大会は相当な手練れしか出場出来ない大会なのですから。その大会に毎年の様に出ているハウルスは、かなりの腕前なのですわ。 「あなたは本当に、楽観的と言うか何と言うか……」 「まぁ。僕はまだ、剣術大会に出れる年齢ですらないからね。でもそれこそ、格闘技だったら勝てなかったかもしれないけど、剣術なら何とかなる気がするんだ。しかし、フィエナ意外だよ。大陸剣術大会とかよく知ってるね」  まぁそうよね。こう見えて私、格闘技とか剣術とか泥臭い戦いに目覚めてしまったのですわ。アストレアを蹴飛ばした事も、あの後色々な人に言われましたわ。 「君の回し蹴りは芸術だ」とか「初動が見えなかった」とか「次は武術大会で待っている!」とか……何か挑戦状みたいな物まで渡されましたわね。  どっちにしても、ブラントンが私の為に戦う気持ちは嬉しいけど、彼が怪我するのは見たくありませんわ。 「ブラントン……無理はしないで。あなたが負けても、私はハウルスなんかとは死んでも一緒にならないわ」 「いや。フィエナを渡すわけにはいかない。ここで無理をしなければいつするのさ。じゃあ行ってくるよ」 「ちょっと!ブラントン……」  彼があんなに感情的になるなんて子供の時以来ですわ。まぁ別に試合で死ぬ事はないし。結果を見守る事にしましょう。  ◇◇◇◇◇ 「どうも。フィエナ嬢。これでうちのハウルスが勝ったら、逆に何処にも逃げれないですな。まぁこちらとしては剣術試合なんて願ったり叶ったり。ハウルスの得意分野なのだからね」 「あら、これはカプリコ公。こんな強引な手まで使って婚約を進めるとは諦めが悪いのですわね。まるで尻尾を落とされても動き回るトカゲの様ですわね。あぁ。これは、ただの例えですわよ」 「まぁ。いつの時代も王家の女性は政治の駒になるものです。そう言うフィエナ嬢も諦めが悪い。私と気が合うのではないですかな?ハッハッハ」  ほんとに食えないジジイね!やっぱりブラントンには、トカゲに勝ってスッキリさせてほしいですわ!  あら。あの皇帝陛下が自ら立ち会いとは、よほどこの試合が楽しみなのね。 「さて。これからワシの前で試合を始めるわけだが。両者、その手に持っている木剣は一体何なのかな?つまらないな。――――誰か、ここにサーベルを持ってまいれ!試合はサーベルにておこなう!」  え!?そんな事したら、どちらかが死ぬかもしれないじゃありませんの! やはり皇帝陛下は少し頭がおかしいわ。両方とも帝国の関係者じゃないの!   「ちょっと!カプリコ公。止めないと、あなたの息子も死にますわよ!」 「何の冗談ですかな?死ぬとしたらクリムゾアの若き王太子の方でしょう。クリムゾアは、つくづく呪われておりますな。パール前王太子が病に倒れ、次は息子のブラントン王太子も死んでしまうのですから」 「カプリコ公、あなた……まさか!」 「お察ししの通り。私が皇帝陛下に提案したのですよ。真剣勝負は真剣でやらねば成り立たないでしょう?ちょっと面白いダジャレでしたかな?ハッハッハ」  帝国の人間は人の命を何だと思っていますの!……っても、周りもさすがに一部ひいてますわね。一見華やかな帝国の社交界。  でも、これが恐怖政治で築き上げられたシュラード帝国の本当の姿ですのね!誰一人皇帝には逆らえないのですわ。 「さぁ。始めよ!女をかけて本気で戦うが良い!」  二人とも、この状況でよく普通に剣を交えますわね。金属音が耳に痛いですのよ。これが戦場の音なのかしら?バカげてますわね!  しかも、やっぱりブラントンが不利ですわ。木剣ならまだしも、サーベルは重いのですわ。力があるハウルスの方が普通に振り回せていますもの。 「ブラントン!!もうやめて!!」 「試合に水を差してはいけませんぞフィエナ嬢。それに、あの二人には、もはや他の音など届いておらんよ。命を賭けた戦いとはそういうものですぞ」  分かってるわよ!イライラさせるわね!もう、こんな戦い見てられませんわ。 「皇太子の肩が出血してますな。息子の剣が掠めたのですかな?ほら、また……やはりこれは息子の勝ちですな。皇太子様は手も出せない有り様。ほら。目を伏せてないで、ちゃんと最後を見てあげなくてはダメですぞ。フィエナ嬢…………おぉ!なんと!」 《おぉぉぉぉ!!!》  何!?この大きな歓声!なに?決着つきましたの?怖くて見たくありませんわ。 「どうしたブラントン!早く首を落とすが良い!」  え!? 私、もはや驚きで声も出ませんのよ。だってブラントンのサーベルが、地べたに尻もちをつくハウルスに突き付けられているし。  そのハウルスのサーベルは遠く離れた所に飛ばされているのですもの。 「おそれながら皇帝陛下。我がクリムゾア王国は剣王の納める国。このような弱い者イジメで首を取ったと知られれば、国に帰って笑い者にされてしまいます。それに、どうやらハウルス様は漏らしてしまわれたようだ。僕はこれ以上近付きたくない」 「プッ!アハハハハハ!」  あっ!思わず大口開けて笑ってしまいましたわ。はしたないですわね。でも、よく見たら周りも爆笑してるじゃありませんの。 「さすがは剣王ベルギートの孫よな。良い。それならばこの試合はブラントンの勝利とする!負けたハウルスは帝国の貴族らしく、潔くフィエナから身を引くのだな」 「そ、そんな。皇帝陛下……僕こそがフィエナの……」 「ハウルスよ。既にこの余興は終わりだ。はて?それとも、何かまだシナリオがあったか?」 「い、いえ……。皇帝陛下」  それ以上突っ掛かってくれた方が、もっと面白い余興が見れたかもしれないですわね。 まぁハウルスの首がはねられても夢見が悪くなるし、これで丁度良いですわ。 「フィエナ!」 「ブラントン。あなた意外とつよ……って、また!」  どうして抱き付いてくるのよ!しかも何で周りも拍手喝采なのかしら!恥ずかしい!恥ずかしい!恥ずかしいですわ! 「余興のエンディングだよ。フィエナ。ははは」 「こういうのは余興にしてほしくありませんわ……あなた、バカですの?」  ほんとに、こういう所がブラントンはガキですのよ。  それにしてもカプリコとハウルスの、あの悔しそうな顔。ざまぁありませんわね。これで二度と私にちょっかい出す事もありませんでしょう。 「フィエナちゃん。ブラントン君。本当に良かったわ!」 「ミレーナ。あのバカアストレアはどうしたの?」 「皇帝陛下と話してるわ。さすがに私も今回ばかりは許せないから、あれから口を聞いてないの!」  ミレーナを怒らすと怖いのよね。アストレアも龍の逆鱗に触れてしまったのかしら。それでも、帝国に媚びようというのかしら。ある意味いい性格してますわね。 「今日はフィエナ達も帝国に泊まるのだろ?良かったら僕達と一緒の宿に泊まっていきなよ。部屋を………いってぇ!!――――お前も来てたのかアズミル!人のすねを蹴りやがって!」 「フィエナを宿に誘うとか。エッチな事考えるからだ!バーカ」 「そ、そんなつもりじゃないぞ!こら!待て。逃げるな!」  はぁ……何なのかしらね。アズミルとブラントンって仲が悪いようで、そう見えないのですわ。なんかブラントン見てると、やっぱり子供だわね。 「ところでフィエナちゃん?私、思ったのだけど。最初からブラントンの婚約者であるフィエナちゃんは、十分に帝国の関係者として会場入り出来たのじゃないの?」 「――――そ、そうね。今さらだけどね」  私、なんでこんな面倒な手順踏んで、面倒な事件起こしてしまったのかしら?一番バカだったのは私でしたわね。
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