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私、王家に転生しましてよ
「フィエナちゃんは本当にお利口さんだね~」
本当にアレクトスは親バカってやつですわね。私が五歳にしてこんなに物分かりが良い子供だからとはいえ、少し鬱陶しいですわ。
産まれた時から子供のフリをするのが大変だったからって、五歳から少し自由にし過ぎたのが失敗だったのかしら?
「本当。どうしてフィエナは、こんなに物分かりが良いのでしょう。きっとあなたに似たのですね」
「何を言うリカーテ。君の方が僕よりもシッカリしているじゃないか。フィエナは君に似たのさ」
はぁ…。私、メリアンナは現在フィエナという名前で生きておりますの。そして私の現在の年齢は五歳。
全く不思議な話だけど。
私どうやら死んでから直ぐに産まれ変わってしまったようね。それも記憶を維持したままで。
そのせいで、死んだあの夜の事は今でも忘れられませんわ!
私を突っぱねて階段下に落とした第一王子のアストレア。
そして『お嬢様の命を助けてください』なんて、当時大袈裟に涙を流して良い人を演じたというミレーナ!
私は絶対この二人に復讐する為に、こんな所に生まれ変わったに違いないと思っていますのよ。
パルムドン王国第二王子アレクトスの長女としてね。
「おとうさま。今日はアストレアはいないの?」
「兄さんは離れた所に式典に行ってるから夜になるよ。フィエナは、そんなに兄さんが好きなのかい?」
「うん!いっぱい遊んでくれるもの。だからミレーナの事も好きだよ」
そうそう。あの女。去年、ぬけぬけとアストレアと婚約しましたわ。
時間がかかったとはいえ、貴族ですらないただのメイドの分際でよく王族と婚約など出来たと思ったら。
私の葬儀で誰よりも激しく泣いて別れを惜しんだらしいの。
それを見ていた各国の参列者も、あの女に感銘を受けたらしいわね。
あぁ~!元々あの二人がデキてた事をバラしてやりたい!今すぐバラしてやりたいわ!
でも今の私は所詮五歳の少女。何を言っても戯れ言にしかならない事くらい分かってるのよ。
だから私は、別のやり口であいつらを蹴落としてやるチャンスを狙っているの。
「おとうさま。私、ミレーナの所にいきたい」
「そうかそうか。僕は今から仕事があるんだ。ジョセフに付き添わせよう」
私、ジョセフと言われても全く分かりませんの。だってこの城には何十人と世話係やメイドがいるんですもの。
まぁどうせ城下町までなので、一人でも行けるのですけど。何せこの立場は自由がききませんわ。
王族と結婚してたら何かと大変だったかもしれませんわね。
ん?白髪頭のおじいちゃんがやって来ましたわ。
どうやらジョセフのようね。早く彼にミレーナの所へ連れて行ってもらう事にしましょう。
「あら。いらっしゃいフィエナちゃん」
ニコニコと笑顔を振り撒きやがって本当に腹立ちますわ。
この泥棒猫ミレーナは、今ではメイドじゃなくて城下町に家まで与えられて、そこで花嫁修業とかいって暮らしてますのよ。
婚約者となった途端に随分と出世してほんと死んでほしい。
「ミレーナ。なにしてたの?」
「今、クッキーを焼こうと思っていたのですよ。フィエナちゃんも一緒に食べる?」
「うん!たべる!」
これは好都合ですわ。この女の作ったクッキーなんて死んでも食べないけれども、評判を落とすにはもってこいの材料じゃないの!
こんな事もあろうかと私、いつも下剤を隠し持ってるので彼女のクッキーに仕込んでやりますわ!
「わぁ!私、作ってる所見る!」
さぁ。クッキーが出来ましたわ。
私がコッソリ作って忍ばせた強力な下剤入りは、あれと、あれと、あれと……丁度、端の三つね。
微妙に形を変えておいたから何となく分かりますわ。
メリアンナ時代に修業してるんだから、クッキーを真似て作るくらい私には朝飯前なのよ!
後はあれをミレーナに……と、そうね。ジョセフにも食べさせましょう。
彼がミレーナのクッキーで腹を壊した事を王宮で面白可笑しく話してやるわ。彼女に料理なんてさせたら国が滅びるって所まで話を飛躍させてあげますから覚悟なさい!
「ジョセフも食べて。はい、あーん」
「滅相もございません!私等にはもったいのぉございます」
何言ってるのかしらこのジジイ。
黙って食べて腹壊しなさいな。あなたが食べないと始まらないのよ!
「あら。ジョセフ様。それはフィエナちゃんの作ったクッキーですよ。食べてさしあげてはいかがですか?」
ん?この女。私の作ったクッキーって何故わかるのかしら?
「フィエナちゃんがコソッと作ってたのが見えたから私、別にしておきました。それにしても、フィエナちゃん。とてもクッキー作るの上手なのね!私、驚きましたよ!」
クッ、何て事!後ろ向いてコッソリやったつもりだったのに、やはりこの小さい体では上手く隠しきれなかったのかしら?
ダメよジョセフ!それを食べたら私の評価が……あ!
「とても美味しゅうございますお嬢様。…………ん……ちょっとミレーナ様。トイレをお借り出来ますかな?」
「え?えぇ。どうぞこちらです」
何て事してくれたのかしら、この女!私がコッソリ作った物をコッソリ分けておくなんて。
まぁでも、ジョセフの口止めなんてどうとでもなるわね。今回は失敗だったわ。
「ジョセフ様はトイレに籠ってしまいました。お腹の調子が悪いのですかね?では、その間に、私もフィエナちゃんのクッキー頂こうかなぁ」
「あ!だめ!」
ダメよダメよダメよダメよ!ジョセフだけならまだしも、この女まで腹壊したら。完全に私のクッキーが原因になってしまいますわ!それだけは絶対にダメ!
「フィエナちゃんごめんね!やっぱり自分で作ったのは自分で食べたかったわよね」
「ふぇすにふぉんなわけや……(別にそんなわけじゃ)」
思わず二個とも口に入れてしまいましたわ!
何て、はしたない事を私ったら……。と、いうかこの二つはマズイですわ。
ヤバイ!何という即効性!催してきたじゃないの!
「ミレーナ。私、トイレ行きたい……」
「あら。困ったわね。ジョセフ様はまだかしら?」
ジョセフのくそジジイ!早く出なさいな!このままじゃ私が生き恥を晒してしまいますでしょ!もう、何ですのこれ。普通じゃない効果ですわ……さすがに二つはヤバ…………あ…………あーあ。
ふぅ――――とても気持ち悪いものですわね。
「あらあらフィエナちゃん!大丈夫!?」
何よこの女のその心配そうな顔。ムシズが走りますわ!
どうせ心で笑ってるんでしょ!笑いなさいよ。どうせ漏らしたわよ。
どうせもう私からは涙とウンコしか出てきませんのよ。
「ありがとうミレーナ。フィエナが迷惑をかけたね」
「いいえ、アレクトス様。フィエナちゃんもまだ子供なので仕方ないですよ」
屈辱ですわ。こんな屈辱は前世でも味わっていませんわ!これも全てはあの女のせいですわね。ミレーナ……絶対に許しませんから。しかもアストレアが帰ってきた絶妙なタイミングで私を引き渡すなんて……悪意を感じますわ!
それは確かに、なかなか腹痛がおさまらなくてミレーナの家のトイレから出られなかった私が悪いのだけれど。
「やぁフィエナ。 漏らしちゃったんだって?いつも言ってるだろ?トイレには早めに行くようにって」
この浮気男!前世で散々私をコケにしてとどめに命まで奪っておきながら、今度は恥ずかしい事を平気で……なんてデリカシーのない男なのかしら!
どうしてこんな男の為に、私が死ななければいけなかったのか……本当に不愉快ですわ!
絶対コロス!
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