常世橋

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 彼女、僕の大切な人だった雪代理恵がいなくなったのは、丁度一年前の夏だった。今年初盆で一周忌。そう思うと、居ても立っても居られない気持ちになった。何もしないまま、彼女のことばかりを考えている間に一年が過ぎてしまった。そんな焦りだ。 「気持ち、何も伝えられていないもんな」  彼女が何か病気だということは知っていた。定期的に病院に行っていると言っていたからだ。しかし、定期的に行く必要はあるものの、命に係わるものではないのだと、なぜかそう信じていた。  違うと知ったのは、彼女が死んでから。理恵の両親に、最期まで伝えないでくれと頼まれていたと謝られてしまった。 「あなたの未来を思うと、自分のために時間を割いてほしくない」  それが彼女の言い分だったという。もちろん、両親はそんなことはないと説得したそうだが、彼女は笑顔でいいのと言ったらしい。 「前だけを見ていてほしいの。その姿に惚れたんだから」  そうなると、今の僕は彼女のことばかりを思って、ずっと後ろ向きだ。前を見ることが出来ていない。 「せめてもう一度会って、君と結婚したいと伝えれば」  それで、一つの区切りがつくとは思えない。これからも彼女を思い出して後ろを向くことがあるだろう。それでも、どうしても、伝えなければ進めない。  二十八歳にしてプロのカメラマンになることを決めた僕。それを何より喜んでくれたのは彼女だ。それなのに、それからすぐ旅立ってしまうなんて。 「会いたいんだ、もう一度」  そう呟いた時、周囲がもう暗くなっているのに気づいた。夕やみが近づいている。あれ、さっきまで昼間だったというのに。  奇妙に思って周囲を見渡していると、そこには理恵の姿があった。
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