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「あっ」
彼女も一瞬驚いたようだが、にこっと微笑んだ。それを見ると、堪えられずに涙が溢れる。足早に近づいて、彼女を抱きしめる。その身体は、もうこの世に実体がないからか冷たい。
「理恵」
呼び掛けても、彼女は答えてくれない。少し身体を離して彼女を見ると、困ったように微笑んでいる。そうか、ここで会うことは出来ても、話すことは出来ないんだ。
「ごめんな。君が、苦しんでいることを知らなくて」
血液の病気なのだという。それもかなり稀少な病気で、完治させることは出来ず、薬で進行を遅らせることしか出来ないらしい。彼女は、自分の血液が正しく体内で出来ないために死んでしまったのだ。
「俺、カメラマンの仕事、ちゃんと続けるから。海外に行かないかって、誘われている」
その言葉に、理恵は頑張ってと言うように頷いた。その姿に、僕はまた彼女を抱きしめる。しかし、その手ごたえは次第に消えてしまった。
「――」
そこではっと顔を上げると、夕暮れ時の景色が目に飛び込んで来た。さっきと変わらぬ夕闇。でも、まだ空は赤く明るい。
「おや、大丈夫かい」
ぼんやりしている僕に、農作業帰りなのか、トラックに乗ったおじいさんが声を掛けてきた。
「え、ええ」
「この橋はあの世と繋がってるなんて迷信があるからね。こんな黄昏時にいちゃだめだよ。夕暮れ時ってのは、あの世と繋がりやすいんだから。特に今はお盆時だしね」
ははっと笑って去って行くおじいさんに、僕は総てを了解した気がした。そうか、この時間だから会えたのかと。迷信にはちゃんと根拠があったのだと。そして、あのおじいさんには感謝しなければならないだろう。ここでぼんやりしていたら、やって来る車に轢かれてしまう。
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