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蛍じゃないのだから、求愛行動の最中にケツが光るわけがない。
ホタル男なんて小説のネタになるかもと思わないでもないけど、セミ男がこの間ドラマにいたみたいだし。
それは置いておいて。
男のケツ、というか、太ももの辺りに赤い塗料がついている。
普通に考えれば、これは背景の川に夕日が反射しているだけだ。
けど、この時、僕の頭に思い浮かんだのは、全く別のことだった。
「もしかしてこれ、携帯の着信ランプなんじゃ……」
お尻のポケットに入れておいた携帯に着信が入っていることを、この赤い塗料で表現しているのではないか。
そんな突拍子もない考え。
そもそも、そんな描写をする必要は全くないのだから、僕の思い込みに過ぎない。
だけど、なぜか、僕はその思い込みを疑おうともしなかった。
あの赤い塗料は、携帯の着信ランプだと、確信した。
そうなると、先ほどの男の腰のあたりにあったサインに目が行く。
あのサイン、本当に絵の構図としてあそこに置かれたのだろうか。
いや、あまりまだるっこしい言い方をしても意味はない。
僕はあのサインを、携帯の着信音だと考えた。
最近のスマートホンだと着信相手が誰かを、音声で教えてくれる。
つまり、この絵の中の男のケツポケットの携帯に、Harunaさんから電話がかかっている状況だと推測した。
「仮にそうだとして、じゃあ、なんで、そんなことを書いてるんだ」
勘違いと思い込みという発想に蓋をして、僕は思考を続ける。
まず一つ。
これが、実際にあった場面を描いたという可能性。
つまり、ラブシーンの最中に、電話をかけてしまったシーンを書いてしまったという可能性だ。
当事者同士は気まずくなったかもしれないが、事情を話せば笑い話で終わるだろう。
ただ、それをわざわざ絵にする意図は不明だ。
もう一つは。
この男性と連絡がとれず、内密に連絡を取りたがっていると伝えるためにこういった方法をとった可能性。
絵を通して、携帯とサインを用いて着信を表現し、連絡を取りたいという暗号にしているのだ。
「橋の上で女の人に抱き着いた男性は、連絡を取りたいので折り返して下さい」
こんな感じのメッセージだろうか。
僕としては、結構お気に入りの考え方だ。個人的にはこれを推したい。
そして、最後。
余りに非現実的で、支離滅裂で、論理的でなくて、かつ、嫌な考えだ。
この考えは、あまりにも荒唐無稽なのに、頭から離れない。
だから、書かざるを得ない。
最初にこの絵を見た時、僕は古臭いと思った。
それが、もしも、僕の勘違いではなく、本当にそうだとしたら。
この絵が、僕の印象の通り、山口百恵が現役で活動しているような、それこそ昭和時代の風景を描いていたとしたら。
昭和、そのころに、携帯なんて存在しない。
あっても、肩掛けの大きなもので、ケツのポケットに入るようなサイズじゃない。
その時代にないものを、わざわざ絵に描き込んだ。
その意図を、僕はこう解釈する。
「過去の時代の貴方に、どうしても伝えたいことがあります」
伝えたいことについては、ポジティブなことも推測できる。
けれど、絵に描き込んでまで、過去に伝えようとすることに対して、僕はどうしても暗いイメージを持ってしまう。
例えば、逃れられない危機、これから起こる悲劇への忠告、そういったものだ。
絵に描かれた女性。
隠れている右手側には一体何が描かれているのだろう。
そして、この男性は、存在しない携帯の着信に気付けたのだろうか。
イラストを描かれた平泉春奈様には、大変な失礼を承知の上で、思いついてしまったことを思いつくがままに書かせていただきました。
想像力刺激されるイラストをありがとうございました。
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