大変な失礼を承知の上で……

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短編小説コンテスト。 エブリスタでは、定期的にこういったコンテストが開催される。 例えば、あるお題に対して短編小説を書く超・妄想コンテストなどは、代表的なところだ。 僕も、受賞したことはないまでも、投稿したことはある。 「今回のお題は、この絵か」 パソコンのディスプレイを前にして、僕はマウスをカチカチとクリックした。 必要事項を読んでいく。 今回のコンテストは、流行りのイラストレーターさんとのコラボらしい。 夕日をバックに橋の上で、男性が女性に抱き着いている。 淡いタッチで、中々雰囲気がある。 美術館とかに飾られていても、違和感がない感じだ。 「けど、ちょっと、古臭いかなあ。  最近はもっとテンプレキャッチーな感じじゃないと。  巨乳清楚黒髪ロングが、白ワンピで太もも見せながらにっこりみたいな」 と、僕のあまりにもあまりな評価は別として。 青ストライプの女性は、どこか昭和というかレトロな感じがあるのも事実だった。 配役的には三浦友和と山口百恵だろうか。 平野紫陽と橋本環奈と言った感じではない。 まあ、偉そうなことを言う前に、まずは自分のことだ。 こういったイベントに使われるような売れっ子と、スター一桁で喜んでいる底辺の僕。 どちらのセンスが正しいかと言えば、間違いなく前者だ。 自分がずれているという自覚位はある。 「でも、まんま、べたに恋愛ものにはできないよな」 恋愛もの剛速球ストレートなんてのは、いかにもハードルが高い。 他の人たちと比較されれば、羞恥で悶絶間違いなしだ。 僕のような偏屈童貞野郎は、もっと変化球でいくべきだろう。 「男の顔が女の首元で隠れてるから、実は男が吸血鬼でした。とか。  実は男はゾンビ化してて、襲い掛かってる最中です。とか」 割とありふれてる。 「女の拳が握り込まれてるから、実は男の脇腹を殴る寸前とか。  いや、これもテンプレか」 一旦、人物から離れるべきかもしれない。 「夕日じゃなくて、禿げ頭?  奥に線路が見えるから、電車がハイジャックされてるとか?  電車がハイジャックって、リニアかよ。  川からカッパが出てきて尻子玉を抜いていく?  画面の外から、そうです。わたすが変なおじさんです。とかおじさんがでてくる」 パソコンの前で、画像とにらめっこしながら、うんうんうなる。 このあたりの発想の貧困さが、才能のなさなのだろう。 椅子の上でグルグル回ったり、逆立ちしてみたり、ネットサーフィンしてみたり、僕は無為に時間を過ごす。 そうする中で、ふと、絵の中の男の腰のあたりに、白い線が書いてあることに気付いた。 「糸くず?いや、何か、文字か」 画面を拡大してやると、答えはすぐにでた。 「H・a・r・n・a・か。なんだ、サインか」 作者の平泉春奈さんのサインだ。 僕は芸術に詳しくないからサインは左下の隅っこだと決めつけていた。 そんな決まりはないし、どこにサインを書こうが、それは作者の勝手だ。 極論、サインを絵に入れずに額の裏に書いておいてもいいのだ。 恐らく、あそこにサインを書くのが、一番絵として座りが良かったのだろう。 なんということもないサインだけど、僕はしげしげと見ていた。 そして、それに気づいた。 「ケツが光ってる?」
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