神のいない月

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神のいない月

 古文の授業は常に退屈だ。  田村真治(たむらしんじ)はちらりと窓の外をみた。銀杏並木はほとんど葉を散らし、寒々しく重なり合った枝の上に、抜けるような青空が広がっている。今日あたり飛ぶかもしれない。 「今日あたり飛びそうだな」 前の席の赤坂大悟(あかさかだいご)がくるりと後ろを振り返って小声で言った。自分が今まさに考えていたことを言われた真治は動揺し、その動揺を隠すために(うつむ)いて小声で「ああ」と答えた。  古文の木村女史は授業態度に厳しい。大悟がさらに何か言おうとしたとき「そこ、何話してるの? 赤坂くん、田村くん」と叱声がとんできた。 「田村くん、一年の復習です。十月の異名はなんだっけ?」 大悟め、とんだとばっちりだ。いまいましい。真治は椅子をガタガタ言わせながら立ち上がった。 「えっと、神無月」 「どうして?」 「日本中の神様が出雲に集まるから」 すなわち、いま、我がO(オー)市も神様は出払っている。 「そうね。じゃあついでに。出雲では十月を?」 「神在月(かみありづき)」 「よくできました」 にっこり笑って木村女史は「座っていいわ」と言った。
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