20人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
神のいない月
古文の授業は常に退屈だ。
田村真治はちらりと窓の外をみた。銀杏並木はほとんど葉を散らし、寒々しく重なり合った枝の上に、抜けるような青空が広がっている。今日あたり飛ぶかもしれない。
「今日あたり飛びそうだな」
前の席の赤坂大悟がくるりと後ろを振り返って小声で言った。自分が今まさに考えていたことを言われた真治は動揺し、その動揺を隠すために俯いて小声で「ああ」と答えた。
古文の木村女史は授業態度に厳しい。大悟がさらに何か言おうとしたとき「そこ、何話してるの? 赤坂くん、田村くん」と叱声がとんできた。
「田村くん、一年の復習です。十月の異名はなんだっけ?」
大悟め、とんだとばっちりだ。いまいましい。真治は椅子をガタガタ言わせながら立ち上がった。
「えっと、神無月」
「どうして?」
「日本中の神様が出雲に集まるから」
すなわち、いま、我がO市も神様は出払っている。
「そうね。じゃあついでに。出雲では十月を?」
「神在月」
「よくできました」
にっこり笑って木村女史は「座っていいわ」と言った。
最初のコメントを投稿しよう!