再会

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再会

*****  今日一日で、何年分も寿命を使い果たしたような気がしていた。 それでも…なんとか、彼女の婚約者である内田雅人さんを見つけることが出来たので、私はホッと胸を撫で下ろしていた。 まぁ…心の底からホッとしていたのは、ずっと青い顔をして縮こまっていた祐介なんだろうけど…(笑)  真澄さんは、久しぶりに会えたのだからと…このまま、彼女のいる祐介の部屋へ同行することになった。 祐介は、どうやら私と真澄さんの事が、凄く気になっているようだった。 「私の光さん♪」なんて…真澄さんが、言ったので…きっと、あれこれと勝手に妄想を膨らませて誤解してるんだろう。わざわざ訂正すると、余計に勘ぐられそうなので…私は、何の弁解もせずこのまま放置することにした。 色々と私が一人で考えていると…内田さんが、小声で聞いてきた。 「由紀は…大丈夫なんでしょうか? きっと…僕のことを恨んでると思うんです。長いことあの場所で、動けなくなっていたことを由紀はわかってくれるのか…すごく僕は心配なんです…」  もう、死んでるんやけど…この内田雅人さんって、めっちゃ細身で長身のイケメンで…生きてる頃は、きっとモテモテやったと思うねんけど…。中身が、少し頼りない感じがして残念すぎる。気が弱いし、お坊ちゃん的なオーラが漂っていて私の苦手なタイプだ。 私は、このイライラした気持ちを抑えるのがやっとだった。 「大丈夫ですよ。 会って事情を話せばきっと、由紀さんならわかってくれるはずです。生きてる間に結婚は出来なかったけど…これで二人一緒に向こう側へ渡って幸せになれるんですよ。だから、しっかりして下さい」  必死に引きつる顔を…なんとか我慢して私が作り笑顔で話してると、助手席に座っている真澄さんが、肩を震わせてクスクスと笑っていた。  きっと、私の顔をバックミラーで見ていたんだろうけど…私は、気付いていないふりをして内田さんを宥めていた。 *************  祐介のマンションに着いて、私たちはすぐに祐介の部屋へ向かった。 部屋へ入ると、祐介が言っていた通りのめっちゃ可愛い彼女さんが待っていた。 「由紀ちゃん! 遅くなってごめん!」 内田さんは、由紀さんに走り寄りすぐに土下座して謝っていた。 「何があったかは、全部この人たちから聞かせてもらった。僕のせいで由紀ちゃんが、自殺してしまったなんて…本当にごめん!」 目の前にいる内田さんを見て由紀さんは、驚いて言葉が出ない様子だった。 「僕は、あの日…結婚を反対する両親に絶縁を告げてから、結婚指輪を持ってマンションへ向かっていたんだ。それが、あの交差点でトラックが突っ込んできて…そのまま死んでしまったらしい…」  何だか…ドラマでありそうな話の展開だと、私は二人を見守りながら心の中で少しドキドキしていた。 すると、由紀さんは両膝を付いて内田さんの両手をしっかりと握りしめていた。 「雅人さん。やっと、やっと…来てくれたんやね」 そして、二人は暫く見つめ合ってから…しっかりと抱き合っていた。 「十年も二人は、苦しんで来たんですからね。向こう側へ渡ったら今度こそ幸せが待っているはずです」 師匠が二人を見て言った。 私もそう心から願って由紀さんに言った。 「では、由紀さん。私に憑依して、この経文を悔いる思いを込めて書き写して下さい」 由紀さんは、頷くと…私に憑依して、悔いる思いをすべて込めて書き留めた。 その後、すぐに師匠の実家の神社へ行ってお焚き上げを済まして、二人が向こう側へ渡るのを見届ける頃には、すでに日付が変わってしまっていた。 ***** 「ありがとうございました。それに…凄い経験をさせて頂く事が出来ました。これで今夜からはゆっくり眠れます」  師匠や真澄さんに深々と祐介は、頭を下げてお礼を言っていた。 帰る間際に「送りましょうか?」と私に祐介が声をかけると…真澄さんが、私の代わりに答えていた。 「光さんは、私が送りますので…お気遣いなく」 「そう……ですよね。では…光さん、ありがとうございました」  祐介は、私の顔を見て少し引きつった笑いを見せると…深々と、頭を下げてから帰って行った。 さすがに私も、凄く疲れて瞼が重くて目が開かなくなっていた。 「師匠、客間をお借りしても良いですか? もう、私……限界です」 その場に倒れ込み、師匠にお願いして…私は、そのまま泊めてもらうことになった。 師匠の実家の客間に泊めてもらうのは、初めてでは無かったので…気兼ねする事もなくゆっくり朝まで眠ることが出来た。 ***  次の日の朝、三人で一緒に朝食を済ませた後だった。 「久しぶりに会えたのですから、今日は二人で水族館にでも行きませんか?」  真澄さんはニッコリ笑って、二人で一緒に水族館へ行きたいと言い出した。そう言えば…しばらくゆっくり水族館へ行っていない。 私が定期的に癒しを求めて水族館へ行くことを真澄さんは、師匠から聞いたんだろう。 「そうですね。しばらく行ってないので、連れて行ってもらえるなら…お付き合いさせてもらいます」  私が、ニッコリ笑って返事をすると…真澄さんは嬉しそうに笑って、出掛ける準備を始めていた。 「お前は、しっかり光さんをガードしてて下さいね。せっかくのデートですからね。地縛霊に邪魔されては困るんですよ」 夜刀に向かって真澄さんは、私をしっかり守護するようにと念を押していた。 「真澄…今日は、遅くならないように光さんを家へ帰して下さいね。明日は、光さんはお仕事で朝が早いのですから…お願いしますよ!」  私を送り届けるのが、遅くならないようにと…師匠が真澄さんにしっかりと釘を刺してくれていた。  二人が、そんなやりとりをしているうちに…私は、母からのメールに返信を送っておいた。 [今日は、真澄さんと水族館へ行ってきます]  真澄さんが私に好意を持っていることは、家族全員が承知しているし、父も母も真澄さんになら、私をお嫁にやっても良い…とまで言っているので、問題は無いのだけど…。 このメールを徹兄(てつにい)が見たら大変な事になりそうだ。 *****  真澄さんの運転する車で、水族館へ向かっていると…真澄さんは、私に少し心配そうに聞いて来た。 「そう言えば…最近、一人暮らしを始めたそうですね?」 少し拗ねたような表情をして…真澄さんは、私の様子を伺っているようだった。 私は、出来るだけ自然な感じで冷静を装って答えていた。 「すみません。兄夫婦が両親と同居することに決まったので、この際一人暮らしも良いかなと…思い切って家を出たんです」 「一人暮らしなんてしないで、我が家へ来れば良かったんですよ。それに…そろそろ、お嫁に来て頂いても全然構わないんですよ♪」  真澄さんの言葉に私は、笑ってごまかすしか無かった。 「そうですか…お兄様が…徹哉(てつや)さんが、帰国されてたんですね」 そして、少し間を開けてから真澄さんはボソッっと呟いていた。唯一…私と真澄さんとの結婚を、断固として認めようとしない徹兄の帰国は、真澄さんにとってかなりショックだったようだ。  三年前、徹兄の海外赴任が決まった時は真澄さんが一番喜んでいたしね。 ****  そして、時間を忘れるほど水族館を堪能して私と真澄さんが出口を出ると、聞き覚えのある声がして、ふと前を見ると兄夫婦がそこに立っていた。 「ちょっと、徹兄…美郷(みさと)ちゃんも…水族館に来てたん? もしかして、デート?」 顔を引きつらせながらも、私は出来る限り自然に振る舞っていた。 「ちゃうちゃう、お義母さんのスマホを徹哉が盗み見したんよ。私は、放っておいてあげようって言ったんやけど…徹哉が、聞かへんねん」 お義姉さんの美郷ちゃんが、苦笑しながら説明してくれた。 「お久しぶりです。徹哉さん、美郷さん。お元気そうで何よりです」 真澄さんが、白々しく二人に挨拶をすると…やっと、徹兄の口が開いた。 「俺は許さん! 光は、絶対にお前にはやらん言うたはずや。大事な妹やからな。俺の許しなしにデートなんかさせへん!」 「徹兄! 真澄さんに失礼やで。今日は、同意の上でここまで来てるんやから、邪魔せんといて。美郷ちゃんにも悪いやん。せっかくの休日に妹のデートの邪魔するのに付き合わせるやなんて…ほんま、あほちゃう?」  言いたいことを全部徹兄に言うてから…私は、美郷ちゃんに頭を何度も深く下げてから真澄さんの手を取って駐車場へ向かった。  駐車場に着いて、急いで車に乗り込むと真澄さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。 「良いのですか? 徹哉さん、ショックだったみたいですよ」 「良いんです。あれは…ちょっと、やり過ぎやと思うので。暫くの間は、反省してもらいます」  私が、感情的になって怒っていると…真澄さんは、私をギュッと優しくハグして言った。 「障害がある程…光さんへの私の思いは、強くなるので全然大丈夫ですよ♪」  そんなことを言ってもらえるほど…私のどこに魅力があるのか? まったく私には解らなかったし、私自身…まだまだ、恋愛というものに面倒臭さを感じているのでどれ位真澄さんを好きかと聞かれると…今は困る。 でも、ギュッと優しくハグされることは、嫌では無かった。  水族館を出て、夕食をご馳走になって少し夜景を楽しんだ私は、真澄さんにマンションの前まで送ってもらった。 「次は、動物園にでも行きましょう♪」 真澄さんは、私にそう言うと…また、ギュッとハグをしてから帰って行った。  家に帰って、シャワーを浴びて缶ビールを飲んで…眠くなった私は、ベットに横になっていた。 「何か…まだまだ、子供扱いされているような気がするんやけど……」 私は、一人でそう呟いてから…それでも動物園ならまた一緒に行っても良いかもと思っていた。 その夜…。夢の中に出て来た夜刀は、また少し心配そうだった。 「光は、徹哉にすっごく大事に思われてるんだね。あれはやっぱり昔のあの事故のせいだよね?」  あの事故っていうのは、十五年前に家族で行った旅行先で起こったバス事故の事だった。私は、徹兄の横に座っていて、徹兄をとっさに庇って割れたガラスが背中に刺さって死にかけたのだ。幸い…命は、助かったけれど…私の背中には、ザックリとその時の大きな傷跡が残ってしまった。 そして…それを知った徹兄は、泣きながら言ったのだった。 「光は俺がお嫁に貰ってやるから、心配するな!!」  そうだ…あの時の事がきっかけで、あんな変態シスコン兄貴になってしまったんだ。 「徹哉も、そろそろ光から卒業しないとね」  夜刀も、やれやれと言わんばかりにため息をついていた。 美郷さんと結婚したから、少しはマシになるかと思ったが…甘かった。 私も、今日の徹兄を思い出して…また、大きなため息をついていた。
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