光と夜刀と地縛霊

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光と夜刀と地縛霊

*****  彼の話によると…影の力は、もともと闇に住む者たちを押さえ込むための力だったらしい。それが…いつの間にか、私利私欲に惑わされた一族に悪用されるようになり、光の力を持つ者を遠ざけることとなった。酷い時には、彼らを止めようとする光の力を持つ者を殺してしまったこともあるという…。 彼は…そんな一族に愛想を尽かしていたが、一番力を持っていたのが、彼の父と祖父だったから、今まで逆らうことが出来なかった…と凄く悔しそうに唇を噛んでいた。 人の心を失い、悪に手を染めていく父と祖父を何とかしなければと、光の力を持つ一族を彼は密かに探していて…彼は、やっとの思いで私を見つけた。 「僕と光の力で…父さんと爺さんの力を封じ込めないと、この世界は大変なことになる。あの二人は、闇の悪霊に取り憑かれて人としての感情が無くなっているんだ。早く何とかしないと間に合わなくなる!」 彼は、結界を解くと…私に協力することを求めていた。 「僕と一緒に来てくれ光。二人一緒なら出来るんだ。影の力と光の力を二つ合わせれば。きっと…あの悪霊を消し去ることが出来る!」 私を見つめる彼の目は、真剣だった。 「本当に二人で大丈夫かな? 私に出来るかどうか凄く不安やし…凄く怖い」 私は、彼にそう言って…その場にしゃがみ込んでしまった。 「今まで、この力を抑えることばっかりで…すべて解放なんてことをしたことが無いから、その後どうなるのかもわからんし…怖いねん。もしかしたら、夜刀まで消えてしまうかも…そんなん嫌や!」  経験したことの無い不安と恐怖を前にして、私の瞳からは涙が滲み出ていた。情けないけど…いつも師匠や真澄さんに助けてもらっていたから、凄く不安で仕方がない。すると…彼は、ギュッと私の両手を握りしめていた。 「僕のことは、気にしないで大丈夫。あの二人に入り込んだ悪霊が、この世を闇に変えてしまう前に…僕たちで何とかしないと、本当にこの世界が大変なことになるんだ。それに…頼もしい助っ人も呼んであるから、光は心配しないで!」 そう言いながら、彼は私の手を引っ張って体を起こした。 「時間が無いんだよ! お願いだから僕を信じて欲しい!」  私は、そう叫んだ彼の真剣な目を見て頷いた。そして、表に停めてあった車に一緒に乗り込んで彼の祖父の屋敷へと向かった。 *****  車の中で、完全に結界を解かれた私の力は、彼の影響を受けてなのか? 自分では抑えきれないほど大きくなっていて、身体が白い光に包まれていた。車のまわりには、地縛霊たちが数え切れない位集まって来てうようよいる。 「こんなに沢山…地縛霊が集まって来てるけど…大丈夫?」 私は不安になって彼に聞いた。 「この地縛霊たちに手伝わせて悪霊は地獄へ…父と祖父は、向こう側へ連れて行ってもらうんだ!」  そう言って彼は、車のアクセルを踏んでスピードを上げていた。私は、後ろが気になって振り返って見たら、地縛霊たちと…見覚えのある白い車が後ろを走っていた。 「真澄さん? あれは、真澄さん?」 「ほら、頼もしい助っ人が現れただろ? 悪いけど彼らにも手伝ってもらうよ」  驚いている私を夜刀は笑って…優しく頭をポンポンと軽く叩いていた。 屋敷のすぐ側で車を停めて、彼と私は車を降りた。彼の力のお陰で地縛霊たちが、少し離れた所にいるので私は何とも無かった。車からは、真澄さんと師匠が降りて来て…すぐに私に駆け寄っていた。私は、真澄さんの顔を見たらホッとして……また、涙が出て来てしまった。 *****  ホッとして泣いてる私を…真澄さんと師匠は二人でしっかりとガードすると、私の無事を確認していた。 「怪我は無かったですか? どこも痛く無いですか?」 無事を確認しながら、真澄さんはギュッと私を抱きしめていた。 「お姫様は、ご無事ですよ♪」 彼は、少し意地の悪い顔をして真澄さんに言った。 「そのようですね。貴方の使者が言っていたことは、嘘では無かったようですね」 真澄さんは、わざとらしく微笑んで彼に軽く頭を下げた。 「光さんの力を解放させたのも貴方ですね。さすがですね」  彼を見て師匠が感心している。それにしても屋敷の中からは、凄く嫌な気配がピリピリ伝わってくる。こんなのは、初めてで私は少し…手が震えていた。 「光…大丈夫だよ、このまま力を解放させてくれれば良い。怖がることは、無いんだ。後は、僕と真澄と龍安で奴等を地獄へ送り返すからね!」 そう言って彼は、真澄さんと師匠に笑顔で言った。 「予定通りでお願いしますよ!…兄さん!」  彼は、少し照れくさそうに笑うと…先に屋敷の中へ入って行った。私は驚いてる暇もなく…屋敷の中へ入って行く彼を追いかけていた。師匠は、困惑している私を見て小声で言った。 「事情は、すべて終わってからお話します。今は集中してくださいね」 「心配しないで! 私が絶対光さんを守りますから…」  師匠と真澄さんは、そう言って…私の手を引いて屋敷の奥へ向かった。 *****  屋敷の中は、真っ暗な闇の中のようだった。 白い光のお陰で、前へ進むことが出来たけど…こんな闇は、人の住む世界の闇では無い。この世とあの世の狭間にいる…ここは、そんな場所のような気がした。 「夜刀…私たちを裏切ったのだな…愚かな奴だ!」 屋敷の奥にある本殿の方から声がして…白髪の老人と大柄なスキンヘッドの僧侶が姿を現した。 「爺さん、父さん、目を覚ましてくれ! そんな悪霊たちに負けないでくれよ!」  彼は、最後の願いを込めて叫んでいたがその声はもう…二人には、届くことはなかったようだった。 「無駄無駄! お前の父も祖父も…もう目覚めることは無い。とっくの昔に欲に溺れてしまった小奴らの魂など、我らが取り込んでしまったわ!」 老人のほうが、声を高らかに笑いながら夜刀に向かって言った。 「夜刀! もう無駄です。二人のことは予定通り向こう側へ送りましょう。そして、奴等は地獄へ送り返します!」 立ち尽くしている夜刀に…真澄さんが叫んでいた。私も力のすべてを解き放って、地縛霊たちを呼び寄せた。 「自由になった魂たち…聞いて下さい。そこに見える大きな白い光の向こう側へ行けば、その苦しみから解放されます。向こう側へ行くためには、生前の行いを心から悔い…そして、そこにいる悪霊たちに囚われている二人の魂を一緒に連れて行って下さい。悪霊たちは、彼らが抑え込み地獄へ送ります。お願いします!」  私は、力の限り思いを込めて彼らに伝えた。すると…人の姿に次々と魂は戻り、悪霊たちの方へ向かって行った。そして、彼等とともに夜刀も真澄さんも師匠も影の力を全開にして…悪霊たちに向かってその力を放った。彼のお父さんと祖父の魂は、地縛霊たちが向こう側へ一緒に連れて行ってくれた。影の力を持つ魂を失った悪霊たちは、あっという間に影の力によって現れた闇の番人たちに地獄へ送り返されてしまった。力をすべて解放してしまった私は、それを見届けてすぐに力尽きて…気を失ってしまった。 今回は、本当に凄く…凄く疲れた。 *****  私が目を開けると…そこは、真澄さんの実家の客間だった。私の手を握りしめたまま…真澄さんも眠ってしまったようで…目が覚めるとすぐ横に顔があったので、少し驚いてしまった。丁度様子を見に来た師匠が、すぐに気付いて体を起こしてくれた。 「大丈夫ですか? あれだけの力を使った後ですからね。無理はしないで下さいね」 真澄さんも目を覚ますと、私をギュッと抱きしめてくれていた。 「お姫様がお目覚めですね。良かった。このまま眠り姫になってしまったら、僕が兄さんたちに殺されそうだったからね」 クスクスと意地悪く笑いながら、夜刀は憎ったらしい顔をして真澄さんに言った。そう言えば教えてもらわなくては。夜刀が、何故…二人をお兄さんと呼ぶのか…。 「夜刀は、何故? 師匠と真澄さんを兄さんって?」 私が問いかけると、師匠が頷いている。 「そうですね。これは、光さんにも話しておかなくてはいけないことでしたね。……夜刀は、私たちの腹違いの弟なんです。二十二年前…。夜刀を産んですぐに夜刀の母親は亡くなりました。そして、父が三歳になった夜刀を引き取り…私たちと一緒に暮らしていたんですが、十五年前に父と祖父が力に奢り、欲に囚われてしまった為に…母は危険を感じて、私たち二人を連れて屋敷を出たんです。夜刀のことは、父の元へ置き去りにしたまま…」 師匠は、深くため息を吐いてから…話を続けた。 「それから、私たちは、父や祖父から身を潜め、影の力に対抗する力を持つために母の元で修行を重ねて来たのです。そして…父と祖父に巣食う政治家や、この国の権力者の企みを阻止して来ました。私たちの大きな誤算は、夜刀もきっと父や祖父と同じように悪霊たちに囚われてしまったものだと、確かめもせずに諦めてしまっていたことです。夜刀が光さんに近付いて来たのは…光さんを幽閉するか殺すためだと、私たちが勝手に誤解したために…あんなことになってしまったんです」  すると…夜刀が、師匠の後に続いて話し出した。 「僕のことをずっと守っていてくれたのは、光の祖母(ばあ)さんなんだ…僕の母さんは、光の母さんの妹なんだ。光の母さんは、光の力を受け継がなかったらしい。僕の母さんが力を受け継いだんだけど…その力も弱くて、身体も弱かったそうなんだ。だから、僕は影の力を強く受け継いだ。…そして、何故か光が光の力をとても強く受け継いだんだ。…それから、夜刀って名前はね…祖母さんがつけてくれた名前なんだ」 夜刀は、少し寂しそうに笑いながら…更に続けた。 「祖母さんは、飼っていた黒猫にも僕の名前を付けていたんだ。僕に会えなくなって寂しかったからだって祖母さんは言って笑ってた。どうしても、僕のことが心残りだった祖母さんは、死んでからずっと僕の側にいて悪霊たちから僕を守っていてくれていたんだ。二十歳になるまでずっとね。…そして、僕が二十歳になった時に光の力のことや光の存在を話してくれたんだ」 夜刀は真剣な目で私を見つめて微笑すると…。 「僕は、光の従弟なんだ…そして、真澄と龍安は僕の兄さんなんだ。驚いたかい?」 私と真澄さんの顔を見比べながら、夜刀はクククッと声を漏らして笑っていた。 「そして…僕の兄さんと結婚する光は、僕の義姉さんになるわけなんだ」 そう言って夜刀は、また意地の悪い顔をして笑った。 ****  数日後…。私は、あることに気付いた。夢の中に出て来た夜刀は、黒猫の夜刀だったのかもしれない。あの日から、夢の中に夜刀は現れなくなってしまったけど…お祖母ちゃんが、私と夜刀の為に黒猫の夜刀を寄越してくれたに違いない。夜刀は、何も言わなかったけど…きっとそうなんだと…私は確信していた。
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