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「でも、あたしじゃ君を幸せにできない。傷つけることしかできないから」
彼女の表情は無理に笑っているように見えて、なんだか今すぐ消えてしまいそうなくらい儚く見えて、僕は胸が苦しくなった。
彼女をここまで追い込んだのは、僕だ。そんなこと、分かっている。
でも、彼女を手放すなんて、到底考えられなかった。優しい彼女は、きっと、同じことを繰り返してしまう。そしてその度に傷ついて、恋に怯え、愛を信じられなくなる。
そうなる前に、彼女を救わなければ。同じような傷を抱えた僕が、救わなければ。
自分にそう言い聞かせて、僕は真っ直ぐ彼女を見つめた。そして、その存在を確かめるように、彼女を強く抱きしめる。彼女の温もりに、どこか安心を覚えた。
「……そんなことない。僕はキミに何度も救われた」
「……でも、それ以上に私は君を傷つけた」
そう言う彼女の声は震えていて、表情は見えないが、涙を堪えているのが分かった。僕は優しく彼女の頭を撫でる。
「人は、傷つかずに生きていけない。それと同じように、誰も傷つけずに生きるなんてこと、出来ないんだ」
僕の言葉に、彼女が涙を落とした。僕の服が温かく湿る。
彼女は、何も言わない。僕はゆっくりと言葉を続けた。
「キミは優しくて、傷つきやすい。だから、誰かを傷つける度自分を嫌って、誰かに傷つけられる度に落ち込んで、苦しいよね」
僕は声が震えないよう、必死で平静を装った。泣きたいのは彼女だ。僕は泣いてはいけない。
「傷つけて、ごめん。救えなくて、ごめん。それでも……キミを放せなくて、ごめん」
僕のその言葉を最後に、しばらくの間沈黙が続いた。橋の下を流れる川の流れが、やけに大きく聞こえる。僕の心臓の音も、それに負けじと大きく鳴らしていた。
彼女の反応が、怖い。もし拒絶されたら、と考えるだけで恐ろしい。
そう考えて、初めて、彼女が自分にとってこれ以上にないほど大きな存在になっていることに気がついた。
先程まで彼女を救わなければ、なんて思っていたけれど、そう考えるのはおこがましいのかもしれない。僕の方が彼女に救われていたのだから。
でも、だからこそ、僕は彼女の側にいて、彼女を救いたい。
そんな思いを胸に、静かに彼女の反応を待った。
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