情報伝達紙クレーデル

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       ―今日の記事―    サリ…サリ・ハラ・ユヅリは、以前は、特別には、情報伝達紙を読みたい、などと思うことはなかった。 けれど、側宮(そばみや)になった頃から、なんとなく読み始め、今では、毎日読まないと落ち着かない。 水の宮公である姉、カリ・エネ・ユヅリを手助けする役職、水の側宮。 その仕事のために、ということなら、アルシュファイド王国内情報伝達紙を求めるべきだ。 けれどサリは、大陸全土の動きを知らせる、情報伝達紙クレーデルを好んだ。 アークの仕事には、関心があったけれど、それは自分が口を出すことではない。 アークの、ひとつひとつの仕事ではなくて。 世界のなかで、アークが動かしている、アルシュファイド王国が、どのように見られているのか。 どのような役割を果たしているのか。 そういうことを、知りたいのだ。 ただ、知りたい。 何か、役立てるのではなくて。 知っておきたいのだ。 それは、明確な意思ですらなかったけれど、サリは、そのような心に、突き動かされていたのだった。 このようにして、朝の習慣となって読んだ情報伝達紙に、今朝、あった記事には、政王陛下、国外視察にご出発、という見出しが見られた。 今のところ、3国交易のことは出ておらず、シャスティマ連邦のなかのナイデア共和国と、その北にあるボルファルカルトル国に向かい、現在、アルシュファイド王国が関わっているウルカグラの道の整備状況や、出稼ぎ労働者として多く雇っている、草木師(そうもくし)の仕事振りなどを確認するものだ、と書かれていた。 サリも、詳しくは聞いていないのだが、その記事以上のことがあることは、察していた。 アークには、公式に知らせることのできることと、できないことがあるのだ。 それは時に、サリにも伏せられているけれど、文句はない。 そんなことを、把握は、しなくていいのだ。 だって、そんなこと、アークが、望んでいない。 でも、大事なひとだから。 自分が、アークのことを、気遣うために、必要なことを知っておきたい。 それは、アルシュファイド王国の、世界から見た動きを知りたい、ということとは、別のこと。 自分の、ただ、アークを思う、気持ちだ。 気遣い、というのは難しい。 詳細を知らずに、触れてはいけないところに触れてしまう恐れがある。 けれど、その恐れをなくすために、アークに詳細の説明を求めて、負担になることはしたくない。 それに、そういうことはたぶん、自分のすることではないのだ。 きっと、祭王ルークとか、白剱騎士シィンとか、お付き合いをしているファイナとか。 双王の補佐である彩石騎士たちが、支えてくれる。 自分は、そういう役目には、ない。 第一に、アークを気遣いたいのは、役目だからではなくて。 大切だからなのだ。 「サリ、そろそろ時間です。出掛けましょう」 側宮護衛団の1人、リザウェラ・マーライトが、そう、声を掛けてくれた。 今日は、水の宮の者たちで集まって、先週、話し合われたことの通達と、今後の対応について話し合うことになっている。 「はい、出ます!」 サリは手早く手元を片付けると、立ち上がった。 明日(あす)の朝、ナイデア共和国にいるアークのことを、情報伝達紙は教えてくれるだろうか。 それよりも、アークが、出発前に約束した、手紙をくれたら嬉しいけれど。 今は、自分のすべき、与えられた仕事を、する。 それだって、アークのためだし。 自分は、自分のやるべきこととして、側宮の立場を、確立しなければならないのだ。 決意の(おもて)を上げて、側宮執務室を出る。 今日は、週の始めの暁(ぎょう)の日。 気を引き締めて、務め始めるべき日だ。
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