政王不在

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政王不在

       ―双王の国―    アルシュファイド王国の双王の1人、祭王ルシェルト・クィン・レグナは、ルークと呼ばれている。 実を言うと、最初はルートと呼ばれていた。 けれど一年後、アークが生まれたとき、幼いシィンが、ルークがいい、と言ったのだそうだ。 それ以来、ルークは、ルークと呼ばれている。 一度、無駄と知りつつ、本人に、なんで呼び名変えたの、と聞いたことがある。 シィンは、だってくやしいから、と言った。 「お前の呼び名は、俺のもの」 大真面目に言うシィンが、おかしくて笑ってしまった。 それ以上に、いとしい。 ルークと、彩石騎士筆頭、白剱騎士ルゥシィン・ヴィーレンツァリオは、わりと幼い頃から、そういう意味で、公認の仲だった。 同性同士で、慕い合うことは、この大陸では少ないが、広く認知されている。 当然、子供は残せないが、それを残念に思う気持ちが、慕い合う者を引き離す理由になることはなかった。 それに、双子の姉と弟であった、ルークの母と、亡くなったアークの父が言ったのだ。 この子たち3人は、繋がっていると。 双子ではないけれど、それと似た繋がりがある。 ルークとシィンが特別思い合うのは、自然な流れなのだと。 2人が何を感じたのか、判らないけれど。 確かに今、彼らは、自分たちに繋がりがあることを、感じていた。 今。 ルークが祭王となり、シィンが白剱騎士となり、アークが、政王となった。 そして、建国した双王の初代以来、空席だった、マナ-レグナの椅子が埋まった。 マナ-レグナ。 真実の王家を示す古い言葉。 彼女のために、初代双王は、このアルシュファイド王国を打ち建てたのだ。 現代双王は、同じく、彼、マナ-レグナであるシィンのために。 この国を、守る。 それは古い約束。 新たな約束に繋ぐ、大切な。 大切な、人を、守るための。 約束。
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