家族旅行

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       ―ⅩⅠ―    翌日の出発の日。 船着き場まで見送りに下りてきてくれたサラナザリエに見送られ、一行はコーリナ城をあとにした。 夕方に着いたヴェッセンでは、行きと同じ宿に泊まり、翌日は、ファランツで船から馬車に乗り換えると、水の国ザクォーネ王国をあとにした。 イファハ王国のケフィラでは、2泊するので、到着した次の日、ミナとデュッカとムトで、外務大臣クリセイドと対面し、まずは、先に手紙で頼んでおいた、北の国境での、ザクォーネ王国の避難民について、改めて対応を頼んだ。 クリセイドは、しっかりと頷き、すでに対処させていると答えてくれた。 一層の安心を得たミナは、今回、整えられた道によって、快適な旅ができていると話した。 まだ、整えることはあるそうだが、順調に進められているようで、クリセイドは、完成したあとが、また問題だなと言った。 「どう維持していくのか、どのような発展があるのか。だがそれは、これからにつながる問題だから。立ち向かってみせる。また、アルシュファイド国に行くこともあるだろう。そのときは、あちらで会おう」 「ええ、楽しみにしています」 ミナの笑顔を、眩しく思いながら見つめて、クリセイドは彼らを見送った。 そのあとミナたちは、観光中のブドーとジェッツィと合流して楽しみ、宿の外の食堂で食べて、異国の夜の賑わいも体感すると、宿に戻って休んだ。 翌日は、リンシャ王国に入って、セルラの港で馬と別れ、今度はハバナ湖を渡る大型船に乗って、王都ハバナムに1泊した。 その翌日、ハバナ湖の残りの距離を、大型船で渡り、ベガの港で、行きに別れた、これからリクト王国への旅で働いてくれる馬たちと再会した。 ここからはまた、馬車の旅で、流土石を用いた道路で快適な行程だ。 夕方まで、いくらか時間を残して、チタ共和国の首都カッツォルネに着いたので、ミナは、ジェッツィを(さそ)って、(いち)に行き、再度、布を確かめた。 「うーん、1枚だけ、買いたいな!ザクォーネ国の布もあるし、私、もっと、踊るときの布のこと、リィナと、ちゃんと話してから、考えたい。これは、普段使いのことも入れて、布を使うってことを、考える道具として、手元に置きたいな!」 「うん。それは、いい使い道だね。じゃ、これは私の(ほう)でお金を出そう」 そうして、手に入れた1枚を、ジェッツィはひとまず、肩に掛けて歩いた。 色合いとしても、布の見た目としても、少し、そぐわない印象ではあったが、あれこれと動かすうち、腰に巻くと、ちょっと異質ではあるけれど、華やかな、娘らしい美しさが加味(かみ)されて、よい感じになった。 「それ、いいんじゃない!?」 ミナに言われて、ジェッツィは、そうかな、と、歩きながら、横に1回転する。 ブドーが、それで踊ると良さそうだな、と言った。 「舞台衣裳ってほどじゃないけど、なんか、いいよ」 「ほんと!」 ジェッツィは、喜んで、また横に1回転し、跳ねるように歩いた。 この日は、宿で食事を摂り、充分に休むと、翌日、ハボットと言う街まで、半日の馬車移動をした。 ハボットは、流土石の道ができてから、新たに、このチタ共和国に生まれた街で、ここに住む者は少なく、近くの村や、村や町としての名のない集落に住む者たちが、宿や食堂など、旅に必要な休息所となっているこの街に、働きに来ていた。 この街には、大きな宿と言えるものはなく、一行が全員で泊まろうと思ったら、商人が作る大きな、護衛を含む旅の団体向けの宿になる。 これは、数人の上客(じょうきゃく)向けに立派な部屋のある宿泊棟を中心に、馬や馬車を停めて世話などができる広場と、狭い仮眠台が多く用意された簡易宿泊棟と、食堂や調理場、個別と共同の浴室のある共用棟が、柵などで区切られたひとつの敷地内にあるものだ。 料理を作る者や、配膳する者、掃除をし、各部屋を整える者、馬の世話をする者、馬車や馬具の具合を確かめて修理などする者は、宿の者と相談して、必要に応じた人数を、寄越(よこ)してもらう。 食材は、人数に合わせて提供され、料理を作る者も雇うなら、求めに応じた時間に食事を用意してくれる。 近くに、夜、遅くまで火を落とさずに食事を提供したり、朝早くから()いている食堂もあるので、そちらを利用する場合もあるそうだ。 このほかの選択としては、数人ずつ別の宿に分かれることになるので、往路では、この、大きな旅の団体向けの宿泊施設を利用したのだが、彼らよりも小規模の団体向けの設備しか取れなかったので、数人が別の宿に泊まることになった。 今回は、彼らの人数に合った設備を取ることができたので、建物は別だが、同じ敷地内で休む。 浴室は、共同のものだけ用意してもらい、男女に分かれて利用した。 用意してもらった夕食を、おいしくいただくと、机の上を片付けて茶を出してもらった。 調理場の者たちに会話が聞こえないよう、ハイデル騎士団のステュウ・ロウトが風を操作して、ムトが立ち、これからの予定を話した。 「さて、ここからは、一応、宿は取ったが、分かれたりしなければならない。初めて行く町もあるので、状況が判らないというところもある。最低限、イルマ、セラム、パリスと、不寝番の4人は、ミナたちと同じ宿にした。テナとユクトには、警護隊だけが付く宿もある。宿の質に重きを置いたので、宿同士が離れるかもしれない。まずは、ここからゼロまでは、陽の高いうちに到着できるので、明るいうちに、できる配慮をしておこう…」 そうして、休憩の場所、食事の手配など、決まっていることを確認して、決められなかったところは、その時々で都合を付けることにした。 今回、知らない道を通るので、ステュウとヘルクスは、1時間ほど先に発ち、問題がないか、確認してくれる。 「王都では、クドウ城に宿泊することになっていたが、少し事情が変わったので、もしかして、宿を取らなければならないかもしれない。今、返答待ちだ。さて、取り敢えずここまでとしよう。この先は、リクト国側次第というところもある。皆、気を引き締めてかかろう」 皆が頷いて、応える。 そのまま、食堂で、お喋りをして、21時にそれぞれの部屋に戻ったりして、寝支度をする。 交替でミナの護衛での不寝番をする者たちとは別に、ハイデル騎士団のサウリウス・ハングロが、徹夜で一晩、敷地内に異常がないか見張ることになった。 イルマや付従者たちの乗る貨客車が、1人分空()いているので、明日(あす)の移動中に、そちらで休んでもらう。 それ以外の者たちは、宿泊棟や、狭いけれど、きちんとした寝具の整えられている簡易宿泊棟で、充分に休んで朝を迎えた。 早朝、デュッカは1番に起きて、ひんやりとした空気のなか、鍛練を始める。 気付いたサウリウスが、挨拶をして来て、異常がないことを確認する。 それから、しばらく2人、相手となって、鍛練していると、続々と仲間たちが起きてきて、あちらこちらで鍛練や、異能の技の確認など始める。 今朝は、なんとなく、旅の仲間全員が外で集まり、しばらく過ごしたあと、揃って朝食を摂った。 1時間早く、ステュウとヘルクスが出発し、残りの者たちも支度を済ませ、8時頃、出発した。 動き出し、デュッカによって振動を消された馬車のなかで、ミナは窓の外を眺めながら、リクト王国国王、ヴァッファルケルン・フードリッヒハウゼンには、今回のことで、慌てさせる結果となってしまったなと、自分の所業を思い返した。 リクト国王を頼ればよい。 そう、リクト王国で捕らわれていた者たちへ示唆(しさ)したのは、完全にミナの独断で、都合のよい期待だ。 しかも、ヴァッファルケルン…ヴァルには、あの時点で、一言(ひとこと)、こうすると伝えただけ。 無礼だし、身勝手だったけれど。 あの瞬間、ああすべきと、思ってしまったのだ…。 もっと、ほかに、やりようがあったのか。 自問しながら、答えを考えることを放棄していた。 もう、やってしまったことは、どうしようもない。 そんな言い訳をして、黄金(こがね)(いろ)に揺れる地面と、荒野と、その向こうに、遠い空を見ていた。
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