家族旅行

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       ―Ⅷ―    ヴァルと合流したブドーは、ガーディとともに、彼らの乗る馬車に乗り換えて、クドウの街の門に向かった。 「国王陛下、仕事抜けてきて平気か?」 陛下、とは呼び掛けるものの、あまり敬意ある言葉遣いとは言えない。 13歳になる少年となると、立場を(わきま)えていていい年齢だが、今は近侍のレジーと、ガーディしかいない。 レジーはガーディを見て、このままにしたら、という表情と判断し、不問にすることにした。 「ヴァルと呼べ。うむ。たまには、あれこれと見て回らなければな。問題が起きてからでは遅い」 「ま、それもそうだな!今夜は、ただの夕食だけ?」 「いや、明日(あす)からの旅の負担にならない程度に、夜会をしようと思ってな。しかし、何をするか、出て来る時には、まだ、決まっていなかった。どうなるかな…」 「夜会って、ほかにどんなのがあるんだ?」 「うむ。茶話会と言って、茶を片手に会話を楽しんで飲むとか、私がまだできないのだが、酒を飲みながら曲を自分たちで歌うなどの酒宴会と、昨夜のような舞踏会などだな。昨夜は、立食の晩餐も兼ねていたが、夕食は別にして、踊りと会話を楽しむこともする」 「茶話会では、歌わないのか?」 「ああ、あれは、音楽を流したりもせず、ただ語らうだけだ」 「ふうーん…、その、酒宴会と、茶話会を合わせて、酒を抜いたようなのとかにできないか?」 「ん?と言うと?」 「たぶん、机を、小さめにしてさ、茶を置く程度にして、低い椅子を近付けるんだ。音楽を何か流しとけば、それに合わせて、ジェッツィなら歌いそう」 「ほう、ジェッツィは、歌が得意なのか」 「ま、得意っつーか、好きなんだな。普段は歌って踊ってるけど、歌うだけもする」 「ほう。ブドーは歌わぬのか」 「んー、俺もまあ、いくらかは歌うけど、ジェッツィと合わせてな。1人では、歌わねえ。あれ、そうだ。こっちでは、誰でも歌えるのか?」 「ん。夜会の(たしな)みとして、一応、習うが、私はどうも苦手だな。歌い方が、今一(いまひと)つ分からぬ」 「えー、歌なんて、普通に、調子を取って、律動に乗ればいいだけだろ。歌い方?」 「ああ。何か、腹から出すとか、なんとか…」 「ああ、胸で呼吸するんじゃなくて、腹で呼吸するんだよ。その方が、音が安定する。ただ、声を出すだけでもな。命令するとき、腹から声、出さねえ?」 「いや、意識していないな。ただ、できるだけ、重々しく聞こえるようには、気を付けてみているのだが…」 「重々しくかあ…。ルークの声は、なんか、調子は変わんないんだけどさ、時々、息を止められる時があるよ。何か、はっとするものがさ、あるよな」 「ルーク?」 「うん。ああ、えっと、アルシュファイドの、祭王陛下」 「祭王…親しいのか?」 「どうだろ。まだ、親しいって、言うほどじゃないけど、好感は持ってる」 「ふうん…」 「着きました」 レジーがそう声を掛け、ブドーとヴァルたちは馬車を降りた。 見上げる高い壁の上には、見張りの兵らしき人影があり、ブドーとヴァルたちは、兵の案内で、壁の中に入った。 壁の内部は、明かり取りの窓などなく、小さな穴が町の方から入っていて、そのお陰で暗い内部が確認できる。 だが、一際(ひときわ)濃い暗がりには、人がいても気付かないかもしれない。 階段は、一階層、上にあがると、しばらく横移動をし、上に行く階段を見付けては、上がっていく、という感じ。 「1階ずつ休めるの、ちょっと助かるー」 「う、うむ。これは、大変だな。はあ、どこまで上るのだ」 「頑張れ、そのうち着くだろ」 ブドーが励まし、ガーディが笑って、階層としては屋内が5階までですねと言った。 「そのあと、屋上までの階段が、また長くなっています。それまでも、一階層ごとの段数も、城より多いですがね。倍に近いと思います」 「そ、そうかっ」 ヴァルは息を切らして、ブドーは、風に乗ればすぐなんだけどな、と言った。 「ヴァルだけなら、抱えて運べそうだけどな。ここまできたら、上るしかないな!」 「う、うむ!」 なんとか頑張って、屋上に着くと、ブドーは、町の外側に向けて走っていって、おー、よく見えるな!と叫んだ。 ヴァルは、肩で息をついて、途切れがちな声で、兵たちは、毎日ここを上るのか、と言った。 ガーディが笑いながら答える。 「まあ、そうですね。しかしどんなことも、毎日繰り返していれば、慣れます」 「慣れるだけじゃ使えないけどな。ヴァル様はもう少し、鍛えた方がいいんじゃないのか。ちょっと心配になってきた」 レジーの言葉に、ガーディは笑う。 「まだ9歳にもなってないんだ。まあでも、城内の移動だけでは、大した運動にはならないからな、もう少し、体を動かす時間を設けても良さそうだ」 「そうだろう。ヴァル様、机に向かってるだけが政務じゃありませんよ。体も鍛えなきゃ」 「うっ、ど、努力する…」 「おおーい、あれ、なんだ!?」 辺りを見回していたブドーがそう呼び、ガーディが足早に向かう。 ヴァルも、息は整わないが、なんとか足を動かした。 ブドーが指差していたのは、配水所で、国の役目として、水の強い者が詰めていて、必要に応じて、畑に水を流している、その、水の流れの始点であり、配水官(はいすいかん)と言う、配水を司る官吏の詰め所でもある。 「へえー、こっちじゃ、川とか、水場が少ないのか」 「うむ、まあ、川はあっても、流れる量が少ないと聞いている。うむ、それも実際に見なければな」 見回す壁のすぐ外は、畑が広がっていて、これらがクドウの住人の腹を満たしているのだろう。 「山は、あんまり高くないんだ。入ってくるときは、すごい山が見えたけどな」 「うむ、リクト国は、国境がほぼ、山壁になっていると言える。ただ、西の境界はそれほど険しくないし、その南部は平坦な土地と聞いている。あとは、東の北部は、山などはないそうだ。国境までは見なかったな、そういえば」 「へえー、えっとじゃあ、リクト国の出入口は、3ヵ所?」 「うむ。まあ、今は、西は塞がれたがな」 「ああ、絶縁結界。あれ、綺麗だよな!こっちからも見えるか?」 ブドーは振り返って西を見たが、どうも見えないようだ。 「うむ。空気の澄んでいるときに、(かろ)うじて判別できるが、今日は判らぬな」 「サラナザリエ様とは、仲良くできないか?」 「うん?いや、ザクォーネ国王のことは、最近、(ふみ)を交わすようになったが、悪い印象は持っていない。付き合いはこれからだが、国のためにも、今後は、親しんでいかねばなるまい」 「ふうーん。国のため、か」 ブドーはそう言って、遠い西の空を見ると、振り向いて、また、東から南に広がる、リクト王国の土地を見た。 「そっか、リクト国は、ほかと比べて、土地がこう、平らに近いんだな。山とか、低いし。チタ国も平らだったけど」 「うむ。見える限りでは、そうだな。以前にザルツベルやアマルフェティにも行ったが、森は深かったが、地面に傾斜はないように思った」 「そうなんだ。俺たちが通ったとこは、道は坂とか、なってなかったけど、すぐ横が崖だったりしてな。えっと、イファハ国か。あそこは、手前に草とか花とか、すっごくてさ、びっくりしたけど、その奥は、すげえ、断崖が立っててさ。あれは見応えあった」 「ほう。見てみたいな!」 「サラナザリエ様と、仲良くなったら、行き来できるんじゃねえ?」 「うむ。そうだな!今のところ、訪問する予定はないが、無理に絶縁結界を通るよりも、あちらの、現在の状況に合わせた方が、平和的でもあるな。何より、そうして旅ができたら、いいなあ!」 後半は、年相応の少年の言葉で、ブドーは、ちらっとヴァルを見ると、そうだな、と答えた。 吸い込まれそうな青い空は明るく、陽が大地に光を(そそ)ぐ。 リクト王国の旅は、まだ、もう少し続くけれど、クドウには、今度いつ、来られるだろうか。 「まだ、話し足りないな、ヴァルと」 言うと、ヴァルはちょっと目を大きくして、それから笑った。 「ブドー、あとは、どこに行く予定なのだ」 「うん?いや、決めてねえ。ジェッツィたちは、布とか、甘いもの探すんだってさ!俺は正直、あんま興味持てねえ。あっち、街の方、見てみようぜ!」 そう言って、ブドーとヴァルは、(かべ)の街側が見える(ふち)に駆けていき、そのあとを彩石ボゥが追った。 2人は、上から街を見下ろして、あれは何、それは何と話すと、やがて、街の一角(いっかく)に目を留めて、あそこに行きたい!と言った。 そこは、色とりどりの布が並べて吊るされている区画で、ガーディの知るところでは、染色街だった。 「鉱物から、様々な手法で色を出して、染めています。ただ、あちらは、少し喧嘩好きや盗人(ぬすびと)などが多いですね…」 ガーディはレジーを見て、デュッカの作った彩石ボゥを見た。 彩石ボゥは、特に反応はなかったが、レジーは、だめですね、と応えた。 「む。実際を知らずして、国など治められぬ!」 「もー少し、おっきくなったら、連れてってあげます」 「むー、それを持ち出すのは、(ずる)い!」 「なんとでも」 「あ、でもさ、街の端っことかなら、いいんじゃねえ?ほら、あの辺、ちょうど変わり目は、店があるみたいだ」 「ふうーむ、しかし、染色の様子が見たいぞ…」 だが、よく見てみると、その辺りには井戸があり、染色作業の最中(さいちゅう)に見えた。 「む。あそこなら、良さそうだな!」 「だろ!どうよ!」 ブドーがガーディを振り返る。 「そうですね…、見たところ、女子供が多いようですから、対処できるんじゃないか、レジー」 「ううーん、そうだな、ちょっと広くなってるし、あそこの詰め所に兵が…5人か。巡回であと5人いるはずだし、まあ、いいでしょう」 「やった!」 ブドーとヴァルは、顔を見合せて笑い合う。 ガーディは一応、彩石ボゥに目をやったが、変化はないようだ。 ブドーとヴァルは、そうと決まったらと、階段に向かって駆け出す。 ガーディとレジーも、足早にあとを追い、上るときよりも、ずっと早く地上に着くと、馬車に乗った。 先ほど、馬車を降りるまで(うで)()だった彩石ボゥは、その姿のまま馬車に乗り、座面の下に、ちょこんと座る。 「今度は、変化しないのだな」 「ああ、うん。狭いとこでは、(うで)()になるはずなんだけど。なんでかな」 6人乗りの馬車に4人なので、特に邪魔とはならない。 ガーディが、用心しているのかもしれませんねと言った。 「着いたら、もしかして、先に出るかもしれません」 やがて、道に馬車の入ることのできる限界で停まり、降りようとすると、彩石ボゥが先に出た。 「ほんとだ。行こうぜ」 ブドーがあとに続き、ガーディ、レジー、ヴァルと降りる。 着いたところは、店の並ぶ路地の入口で、脇に兵たちの詰め所があった。 レジーは、そちらに向けて軽く頷くと、片手を上げて、押し(とど)める仕草をした。 ブドーとヴァルは、初めて見る様相(ようそう)に興味津々(しんしん)で、端の店から、何が置かれているのか、覗いていく。 「こちらは、染色関係の店のようですね。染色に使う鉱物や、布や、桶などといった、道具類の店と考えると、いいでしょう。さて、先に、染色の様子から見に行きましょう」 そう促されて、ガーディを先頭に、彩石ボゥを横に歩くブドーと、ヴァルが続き、レジーが後ろに付く。 この店の通りは、意外に長くて、どうやら、染色に使う鉱物が、多種類あるために、店も多くなっているようだった。 用途の判らない道具などもあって、聞きたかったが、まずは染色の様子を見た方が、手っ取り早いのかもしれない。 ブドーとヴァルは、きょろきょろと辺りを見ながらも、ちゃんとガーディのあとを付いていった。 しばらくして、店の通りの終着地には、井戸と、それを利用するための広場が見えてきた。 井戸からは、少し距離を置いて、排水溝のある道の端に並ぶのは、女たち。 背には乳飲み子がいたり、周りには、ヴァルの胸ぐらいの身長の子たちが駆け回っていて、母らしき女の腕に、しがみついていたりもする。 「これは、大変そうだな」 「そうですね。ああ、そちらの者がいいでしょう。すまない、少し作業を見せてもらえないか」 ガーディは、手近に座る、子が周りにいない女に向き直り、声を掛けた。 「えっ、何?」 「作業をしながらでいいので、説明をしてくれ。そちらの、お子が、異国からの旅人でな。鉱物の染色など、初めてだろうから、見せたいのだ」 そう言って、手間賃を受け取ってくれるかと、紙幣を1枚見せて、何かの紙に簡単に(つつ)み、差し出した。 女は、濡れて、染色のためにだろう、黒っぽくなっている手を拭いて、受け取った。 「あ、でも、私らは、染色をしてるんじゃないんだ…です。今は、染色した、余計な色を落としているところで」 「色を落とす?せっかく染めたのにか?」 ヴァルが、しゃがみこんで、女に尋ねる。 女は、低い台に腰を乗せている、自分よりも頭が低い位置にある少年が聞くので、応えやすくなったようだった。 「ああ、うん。全部じゃないんだけど、鉱物の染め物は、何度も重ねて染めて、もうこれ以上染まらないってところまで、布に色を染み込ませるのさ。まず、1回目、染めて、洗い流して、干したら、色が布に定着するんだ。その上からさらに、同じ色を染め直すと、1回目より色が濃く、はっきりとしたものになるんだよ。私が今洗ってるのは、最後の、10回目」 「10回!」 ヴァルの驚きようが面白かったのか、女は、あははと笑った。 「まあ、これは特別、濃くしているからね。もっとするところじゃ、20回超すとこもあるらしいよ。鉱物によってとか、出したい色の濃さによってとかで、回数は、ちがうんだ。それに、これは全体を染めてるけど、一部に色を付けるとか、色の付き方で模様を作ったりとかいうとこは、また、ちがうやり方らしいよ。くわしいことは、知らないね」 「そ、そうなのか…、すごく大変そうだ…」 「うん、まあ、大変だけど、こうして、仕事ができるだけ、いいよ。動けなくなったら、こんなこと、できないからね。私のとこは、こんなところだよ」 そう言って、女はガーディを見た。 「ああ、ありがとう。邪魔をしたな」 「いいえ。さよなら、坊や」 ヴァルは礼を言うと、立ち上がって、女たちを見回した。 彼女たちは、体の横に、水の入った、座った状態と同じくらいの大きさの桶を置き、そこから手桶で、足下に置いている、布を入れている桶に水を移して、洗っている。 座る台と、大きな桶と、洗い桶と、手桶が、仕事道具のようだった。 作業の終わった女が、大きな桶に、道具のひと揃いと布を入れて、片側を浮かせると、地面に接する部分で回しながら動かし、去っていった。 「これだけでも、染色という作業の、ほんの一端なのだな…」 「そうですね。これを踏まえて、さっきの店で売っている道具などを、見て帰りましょうか」 「ああ、うん。そうするか」 そうして、ブドーとヴァルたちは、道具や、様々な鉱物を見て歩き、通りを抜けた。 「さて、ヴァル様には、今から戻って茶の時間とし、少し仕事の区切りをつけた方がいいですね」 ガーディが言い、ブドーが、俺も城に戻る!と言った。 「一緒に、茶、飲もうぜ!」 「うむ!」 馬車に戻ると、彩石ボゥは(うで)()になった。 もう、特別な危険はないと見たのだろう。 「便利だな…」 レジーが呟き、ガーディが、風の宮公ならではだなと言った。 「様々な条件付けを、彩石で固定している。風の宮公であれば、彩石なしでも、同様のことができるだろうが、彩石を使った方が、術の定着ができるし、その状態で安定するから、その分が楽になる。レジーでも、ヴァル様でも、彩石なしで同じことはできますが、それにはまず、自分の力を安定させる必要がありますね。あと、まあ、先ほどの大きさの彩石ボゥは、まず、無理でしょうね」 「小さくなるか」 ヴァルに頷いて、ガーディは、ええ、と言った。 「あと、ヴァル様は土が強いですから、そちらに合った動物となるでしょうね。地を走る獣です。レジーなら、鳥が作りやすいかもな」 「獣は作れないか」 レジーの問いに、ガーディは首を横に振って返した。 「作れないこともないが、風の宮公のように、実体のあるものを作るのは、またさらに手間が掛かるからな。小さくても実体のあるものが都合良ければ、それでもいいが、お前が考えているのは、いざというとき、盾になれる獣だろう。それをするなら、もう、動物などではなく、普段から、(うで)()の形を取っている方が、簡単だな」 「うむ…、鳥だと、また違うか」 「まず、行動範囲が変わる。大抵の者は、上空に注意など払っていないから、滑空が間に合うなら、上空から盾が降ってくれば、これは成功する見込みが高いだろう」 「なるほど…、なんでも、やり方次第なのか…」 「そうだな。普段は(さわ)れないが、いざという時だけ実体化するなど、考えれば、幾通りもあるだろう。自分の異能の制御を確実にする訓練をしながら、考えてみるといい」 「今はまだ、できないか」 「どうかな。私も、話しか知らないのだが、異能の制御は、もっと緻密にできるようなんだ。近々、その指導の者を寄越(よこ)してくれるということなので、まずはやってみる」 「ふうーん。制御の、訓練の指導…」 「それはまた、今度話そう。着きました」 王城に到着して、レジーが降り、ヴァルが降りて、ブドー、ガーディと降りる。 青殿の喫茶室が近いので、そちらに向かい、ブドーとヴァルは、ガーディとレジーとともに、先ほど見た景色、人々の様子、街や店の様子と話した。 時間半ばほどで、ヴァルは仕事に戻らなければならず、ブドーは、城に残っているハイデル騎士団が手隙(てすき)なら、鍛練などしたいと言って、そちらに向かった。 特に仕事のなかった、ステュウ、サウリウス、ゼノ、ラシャの4人は、昨夜(さくや)のうちに親しくなっていた、リクト国王軍王城警備隊副長のレモンド・ハケルを交えて、異能の技を訓練しており、ブドーは、そちらの輪に入った。 夕暮れ前、ミナたちが戻り、多くの荷物が届いて、確認など済ませると、ガーディは手配があると言って、一旦、城を出た。 闇が降りる前にと、ブドーも誘われて、王城の黒殿に沿うように立つ中庭の塔に上がり、クドウの街と、その向こうにある景色を、ぐるりと見渡した。 やはり平地の多い、なだらかな国土に、(いき)()く人々を()べるのは、まだ幼い少年王。 彼の選ぶ道には、何があるのか。 知る者はないけれど。 陽は落ちてもまた、昇る。 明日(あす)は必ず、訪れる。
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