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―ⅩⅩⅠ―
「リーリアさま!ごはんできたよ!」
少しばかり年長の、それでも、ヴァルより年下の女の子が、戸口からそう叫ぶ。
キリルリーリア、と呼ぶのは、子供たちにはちょっと難しかったらしく、リーリアという、娘時代までの、懐かしい呼び名で定着した。
リーリアは、このベックの町の子供のこと、このリクト王国に、彼らのような幼子が多いことを聞いて、自分も何かしたい、と言ったのだった。
あまり、深い考えとは言えない。
ヴァルとこうして離れてしまったことも、少し後悔していたが、せめて何か、したいと、思ってしまった。
ヴァルのため、とは、言えない。
国政について、リーリアは何も知らないし、今後も知ろうとは思わないのだ。
ただ、ミナが。
あの、不思議な雰囲気を持つ、彩石判定師が、捨て置けぬと声を上げた。
異国の者が。
発したその声が、たぶん、リーリアの心を、動かした。
どんな風にかは、正直、よく、判らないのだけれど。
その声に応えなければ。
何か、使命感のようなものが、生まれ、自分を、突き動かす。
「リーリア様、こっち!」
また別の女の子が、リーリアを呼んで、汁を装うための杓子を渡した。
このくらいの手伝いなら、リーリアもできる。
いくつかの鍋に分かれた汁を装っていき、膳の整った子から食べ始め、リーリアも、調理担当として雇った者に杓子を渡すと、食卓に着いた。
汁の中身は、できるだけ具沢山にしており、硬いハーゲンを浸して食べる子が多い。
これから、彼らに、何をしてやれるのか、判らないけれど。
こうして、動き出した、責がある。
途中で投げ出しはしないと。
リーリアは、暗い外を見せる窓硝子に映る自分を、見据えた。
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