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ヒートと分からず満員電車
この世界には『男と女』の他にもう一つ、第二の性というものがあり、それは三種類に分けることができる。
一、エリート体質のアルファ。
二、子孫繁栄特化体質のオメガ。
三、数だけは一番多い、何の特徴もないベータ。
ん? 俺の第二の性?
アハハ! そんなの見りゃ分かんだろ。
一番無難でロマンがないヤツだよ!
*****
(『運命の番』かぁー。いいなぁ、ロマンチックだなぁー!)
夏真っ盛りの、とある水曜日の会社帰り。
俺は某ハンバーガーチェーン店で夕飯をむさぼり食いつつ、心の中でため息をついた。
(まぁ俺はベータだから、あこがれたところで意味がないんだが)
たぶん今ジト目になっているだろう俺の視線の先には、スマホがある。
その画面がうつし出しているのは、先週末に参列した結婚式の画像だ。
友人である新郎はアルファ、この時にはじめて会った新婦はオメガ――「ふたりは『運命の番』なんだ」と、新郎の兄が笑顔で教えてくれた。
(前の恋人と別れて一年半くらいか? そろそろ新しい恋人が欲しいよなぁ)
叶うなら次は年下のギャル系希望! ……などと考えていると、ストローを突き刺したドリンクを持った人物が左隣に座ってきた。
(何だコイツ? 席に余裕あるんだから、ひとつ空けて座れよ。キモいな)
現在の時刻は二十二時。
とっくに夕飯のピークは過ぎているため客の入りはまばらで、他の客と距離をとってゆったり座れる状況だ。
なのにコイツは、窓際のカウンター席に座っていた俺の真横に座ったのだ。
(こっちは残業終えて、遅い夕飯を優雅に満喫してたってのに……)
ちらりと盗み見ると、隣人は派手なファッションに身を包んだ、細身の若い男であることが分かった。
歳は今年二十五歳の俺より数個下に見える。
アパレル系店員か美容師か、はたまた美大生か――そんな雰囲気の奴だった。
(他人との距離感おかしい変な奴かもしれないから、さっさと食って店出よ)
しかし、細長いフライドポテトを三本まとめて口に放り込んだ時、「ねぇ、お兄さん」と隣人に話しかけられてしまった。
「……何か?」
関わりあいになりたくないのにと思いつつ、渋々左を向く。
(おぉ?! 超イケメンじゃん! 白人系のハーフっぽい)
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