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3.探索
お兄さんが車を走らせること十数分。街外れと形容できるような、田舎の風景が広がっていた。
「ああ、多分あそこのスーパーだ。あそこからいなくなっちゃったらしいね」
「みたいですね」
助手席に座るのは狐乃音。的確に、自分の頭に浮かんだイメージをお兄さんに伝えていた。
「そこを、右に曲がってください」
「わかった。……随分と細い道だな」
「しばらく、私がいいと言うまで真っ直ぐ進んでください」
「ゆっくり進むね」
「はい」
問題のスーパーから数分程度の距離。そこは里山がいくつもあるような、長閑なところ。
「そこです。止まってください」
「うん」
お兄さんは森の脇に車を停め、降りる。
「こっちです」
「森の中?」
「いいえ、奥です。このすぐ先に、古いお家があるはずです」
とてもそうは思えないが、きっとあるんだろう。お兄さんは、狐乃音の力を完全に信頼しているのだった。
「わっ!」
視界がひらける。突然森が途切れ、小さな断崖が現れた。そしてその下に、かつては人が住んでいたことを伺わせるような、朽ち果てた家屋が見えた。
「農家かな」
「多分、そうだと思います」
二人は注意深く断崖を降りる。庭には草が勢いよく生い茂り、家屋の茅葺き屋根は大穴が開いている。
「こっちです」
狐乃音が案内するのは家屋ではなく、庭の外れの方だった。
「ありました。この中です」
「これは……」
かつて井戸だったもの。長い間使われていないのか、土砂が流れ込んでいた。開いた穴は小さく、子供が一人通れるかどうかだった。
「おーい! 誰かいるかい? 聞こえるかい?」
お兄さんが大きな声で呼びかけてみるが、返事はなかった。狐乃音もそれをわかっているようだ。
「お兄さん。私が行きます」
「え?」
「大丈夫です。危ないと思ったら、神様の力、使わせてくださいね?」
「それは勿論いいけど……」
「ロープ、しっかり持っていてくださいね」
出かける前に、狐乃音から『登山用のロープとか、ライト付きのヘルメットとか、ありませんか?』と、問われたものだ。
あるけれど、何に使うんだろうとお兄さんは思ったが、狐乃音は答えなかった。実際に状況を目にするまで、確証が持てなかったようだ。
「お兄さん。大丈夫ですから、心配しないでください。私のこと、信じてください」
「わかった。信じるよ」
「ありがとうございます。それじゃ、命綱もきちんと結びましたし。狐乃音、突入します!」
狐乃音の頭にはヘルメット。ぶかぶかだったので、タオルを詰めて対処した。ライトもつけて、狐乃音はゆっくりと穴に潜り込んでいく。尻尾が汚れるのも気にしない。
「んしょ、んしょ」
暗闇に満ちた土の中へ、狐乃音は進んでいく。
そこに待ち受けているのは果たして――?
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