4.光をもとめて

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4.光をもとめて

 ここから出して。助けて。暗いよ。怖いよ。誰か来て。  長い間、誰にも届かなかった声が、たった一人の女の子には聞こえていた。 (だーれ?)  まだ言葉を覚えたての、岬ちゃんという名の女の子にだけ。  母親に連れられてやってきたスーパー。  週に一度の買い出しは、大型のカートがいっぱいになるくらいのボリューム。  大きなエコバッグはみっちりと膨らみ、ずっしりと重い。母親は駐車場にカートごと持ってきて、車の後部ドアを開け、歯を食いしばりながら荷物を持ち上げ、入れていた。  母親が女の子の手を離したのは、その、ほんの一瞬のことだった。 (だ~れ?)  女の子は平均よりも発育が良くて、同年代の子に比べて背も高く、体つきがしっかりしていた。それ故か、走る速度もなかなかのものだった。 (ど~こ?)  とてとてと、あっという間に駐車場を出ていった。草むらや、ちょっとした丘をものともせずに進んで行った。 ◆ ◆ ◆ ◆  ああやっぱり、そうだったかと、狐乃音は思った。 「こんにちは」  まず、挨拶をした。 「私は、狐乃音と申します」  自分から名乗らなければいけない。そして、問う。 「あなたはどなたですか?」  涸れ井戸の底にて、狐乃音は語りかけていた。 「ののむら、みみ」  それは、狐乃音と同じくらいの歳だろうか。女の子の姿が、ライトに照らされて見えた。  体が透けている。幽霊だと一目でわかるような、そんな存在。  みみと名乗った女の子の側には、土まみれになりながらも、安らかな寝息をたてている、女の子の姿があった。岬ちゃんだ。 「こんな事になるなんて、思ってなかったの……。ごめんなさい……」 「謝ることはないです。あなたのせいではありませんよ」  狐乃音は全てを悟ったかのように、優しくそう言った。 「ずっとここから出られずに、寂しかったんですよね」 「うん」  みみという名の女の子は、少ししゃくりあげながら、頷いた。 「すぐに、ここから出ましょうね」 「出られるの?」 「勿論です。……お兄さ~ん! 聞こえますか~?」 「ああ! 聞こえてるよ! 大丈夫かい?」  狐乃音が大きな声を張り上げる。僅かながら、地上にも聞こえているようだ。こんな穴の中にいたならば、どんなに騒がしい子供の泣き声だって、かき消されてしまうことだろう。 「大丈夫です! それと、岬ちゃんを見つけました! 無事です!」 「そっか! よかった!」  狐乃音はお兄さんに向かって、言った。 「お兄さん! 今から、プランA発動なのです!」 「プランAだね。了解!」  光をもとめて、狐乃音は次の一手を打つのだった。
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