日本国その他、合併協議会のお知らせ

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9ade3736-46cf-4f36-b432-f44157ee6a05 「総理、そろそろ記者会見のお時間です」 「中上君。もう、そんな時間か」  首相官邸の総理執務室では、森永(もりなが)朝陽(あさひ)が、自分のデスクで、一枚の文章に目を通していた。  総理秘書官、中上は真面目な表情で、気を付けをして、森永の一挙手一投足を見逃さないようにしている。 「グリニッジ標準時で午前六時時の発表だね。日本時間午後三時だが、報道各社の対応はどうなってる?」 「重大発表があるので、全てのテレビ局はテロップで、番組の途中ですが、午後三時より、臨時ニュースになります、です」 「テレ西(にし)もかね?」  テレビ西京(にしきょう)のことだ。在京テレビ局で、他局が報道特番を放送していても、通常編成で、アニメ番組を流したりしている。  過去に海外で戦争が始まったとき、唯一、報道特番に切り替えなかった。その日だけテレ西(にし)の視聴率が、在京テレビ局で、トップになったこともあった。 「総理、テレ西(にし)さんも、一週間前の官房長官が今日の午後三時に、総理記者会見があることを、記者会見で伝えたので、報道特番になるそうです」 「中上君、今更だが、僕の記者会見、事前に日時を発表すべきでなかったね」  中上は悔しそうに(うつむ)く。 「僕は総理になってから、数カ国だけでも、枠組みを作って、将来、人類が統一政府の(いしずえ)にしたかった。日本国にとっても希望の光だったんだ。人類の平和は遠のいたな」  森永は、代議士になってから、少子高齢化、福祉、医療分野に力を入れた。国内からの受けが良かった。  当時の総理が内閣改造をした折、「日本で福祉の国際会議あるから、外務大臣をやって欲しい」と頼まれた。  国際会議の準備に追われた。就任時点で、会議が閉幕すればまた、内閣改造で外務大臣の席は、譲ることが運命(さだめ)だった。  外交に詳しくない森永は、国会では、野党から矢継早に、難しい外交用語を使われて質問された。  返答に窮して、度々、外務省の職員は、大臣が並ぶひな壇で、森永の前でしゃがみ込んで、教えていた。中上は当時、外務省勤務であった。総理就任の際、森永は総理秘書官に中上を任命した。  森永は机上に置いた紙を、赤いペンで手直ししながら、チラっと中上を見る。 「海外でも直訳されるだろうから、誤解を招く表現がないか、見て欲しい」 「はい」  中上が総理の脇で、前屈みになりながら、赤いペンで手直しをしてゆく。 「ここは支持ではなく、理解ですね」 「ああ、支持は支援をする用意がある。理解は理解しただけだね」  外交用語は異なる文化、言語で行き違いがないよう、分かりづらい。同時に、長い年月、人類が話し合いで解決して、培った知恵でもある。 「総理、記者会見の準備が整いました」  扉を開けながら、別の総理秘書官が告げた。両手をデスクにつきながら、森永は腰を上げる。朱書きで訂正された紙は、中上がファイルに挟む。  森永は片手でファイル受け取り、スーツの脇に挟んだ。
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