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「っ……先生、変っ……」
さっきから火照って仕方のない顔を、千都香は両手で覆って悶える。
「変って何だよ」
「……だってっ……優しいっ……」
千都香は、俯いた。
優しい。というか、甘い。
触って欲しいとは確かに言ったが、触るだけでなく撫でるわキスするわ普通に笑うわ、さっきソファにふんぞり返って人を追い返したのは何だったのかと問い詰めたくなる。
「俺は、いつも優しいだろ」
俯いた頬を撫でられる。手を洗って来たからか冷たく感じるのが、熱い頬には気持ちが良い。
「それは、そうだけどっ」
壮介の優しさは、普段はとても分かりにくい。甘やかさずに突き放すのが本気で容赦がなさ過ぎるので、傍目からは優しいとは到底思えないだろう。
それが、急に、分かりやすいを通り越して、あからさまに優しくなった。
今も、頬を撫でる手にぼうっとしていたら、いつの間にか親指で唇を撫でられている。
「……優しく無い方が、好みなのか?」
「そうじゃなくてっ……あ、」
壮介は苦笑して、千都香の着物の襟から手を忍ばせた。
「お前、もう黙……」
黙れ、と言い終える前に、千都香の肩から着物を滑らせて落とした壮介が絶句した。
「……千都香……。」
「はい?どうしたの?……んっ、」
「あん時、これ着て無かったよな?」
「え?……これ?」
千都香は、自分の肩を覆っている、鮮やかな紅絹の長襦袢を見た。
「ああ……これは、冬の長襦袢で……ぁ」
「冬?季節が有んのか?」
長襦袢を押さえている紐を解き、絹に包まれた体の線をなぞりながら、壮介が尋ねる。
「ん……あの時は、夏の長襦袢着てて……この着物、本当は今の季節に着る物じゃないから、せめて長襦袢は冬物に、って……」
「……わざと着た訳じゃねぇのか……」
「え?」
ぼそりと呟かれた言葉の意味が、今ひとつ飲み込めない。壮介を見ると、眉根を寄せた、いつもの顔になっている。
「なにが、わざと?」
「何でも無ぇよ」
「え?え?……あ……」
紐が全て解かれて、するりと半襟が分けられる。素肌に冷たい手が触れて、千都香の睫毛がふるりと震えた。
「……長襦袢脱いだら、寒くなるな」
千都香が震えたのを、寒さのせいだと思ったのだろう。壮介は一度はだけた紅い長襦袢を掻き合わせて、千都香の頭をぽん、と撫でた。
「布団出すから、待っとけ」
「ふとっ……んっ」
千都香はまた、頬に手を当てて俯いた。
俯いたまま壮介を見ると、自分が泊まった時に使っていた布団を、押し入れから出して敷いている。
これを今から、二人で使うのだ。
今更ながら、自分はなんと大胆な事を頼んでしまったのだろう。
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