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「ん……」
平取千都香の濃密な夜が明け、気怠い朝が来た。
布団から出ている部分に触れる空気が、少しだけひやりとする。眉を寄せて毛布を掻き寄せ、きゅっと腕に抱え込んでから、いつもと違う事に気付いた。
床が近い。ベッドではなく、布団に寝ている……?
「っ?!!!!」
思い出して、瞬時に全身が熱くなった。
ここは、壮介の家の納戸だ。体がだるいのは、昨日二人で散々……
「先生っ?!」
千都香は、布団の中で振り向いた。昨日あれこれ致した末に、一つ布団にくるまって抱き合ったまま眠った男は、目の前には居ない。それなら、反対側に居るのではと思ったのだ。
「……あれ?……先生?…………っそーすけ、さん?」
思い切って呼び慣れない名まで呼んだのに、辺りはしんとしている。
千都香は毛布を巻き付けて起き上がり、奥の部屋を見に行こうとした。
「……ぁんっ……やだっ、」
立ち上がりかけて、うろたえた。無理矢理自分を動かして、風呂場に駆け込む。
何も着けない壮介とあれやこれやを致したあとで、そのまま眠ってしまったツケが今頃来た。人に言えないもろもろを、こそこそと洗い流して、始末する。鏡に映った自分が目に入ると、あちこちが点々と赤い。恥ずかし過ぎて、涙が浮かんでくる。
「……もうっ!……せんせーっ!?」
風呂場を出て膨れながら呼ぶが、返事が無い。
トイレかと思って見に行っても、影も形も無い。
「……どこ行ったのよー……」
憮然とした千都香は、台所で一枚のメモを見つけた。
『済まなかった。
毅に謝って来る。
待ってろ。』
「……何、これ……」
見た瞬間、文字に頬を叩かれた気がした。
済まなかった、とはどういう意味だろう。
千都香を抱いた事を、後悔しているのか。
毅に、何を謝ると言うのか。
毅に気がありそうにしていた元弟子のとんでもない女にせがまれて、一夜の過ちを持った事を謝るとでも言うのか。
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