あなたが私に触れた夜

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「えっ?……ぁんっ!」  後ろから回された手が、胸を(いじ)る。布越しに触れられる感触よりも、見える光景の方が千都香の快感を煽った。  眩しく見詰め、焦がれていた、器を繊細に扱う手に、自分の体が(みだ)りがましく(まさぐ)られている。 「あ、……ど、して、」 「るせぇよ」  壮介は強引に千都香を振り向かせ、無理矢理唇を塞いだ。初めてのキス、と言うにはかなり手荒いその接触で、千都香の頭は霞み始めて、漏れる声を止められなくなった。 「……んっ……は……ぁん……」 「お前、んな声誰に教わった」 「ひゃん!!」  着物の上から胸を掴まれ、体が無意識に震える。気が付くと千都香は、すっかり背後にもたれてしまっていた。 「……だってっ、それっ……んっ………」  もどかしい刺激を与えられるたびに疼く様に襲ってくる甘さに、千都香は目を伏せた。それは千都香がこの一年程の間、自分の中に潜んでいる事を見ない様にしていた物だ。  壮介に、女として見られたい。  壮介が自分の師である以上、それは、許されない望みだ。  女として見られなくても、弟子として近くに居られたらそれで良い。  弟子ですら居られなくなるなら、友達の妻としてでも── 「あ……やぁあんっ……」  蓋をしていた自分の汚く醜い部分が、欲と共に噴き上がって来る。  それを抑えれば抑えるほど、(はら)の底に潜んでいた女の種は、千都香の中で膨れ上がった。暴かれて触れられる事を渇望していたそれは、欲しかった物を思いがけなく与えられて、急激に芽吹いた。悦びと共にしなやかで淫靡(いんび)な蔓を千都香の体中に伸ばし、あっという間に身動きが取れないほど、千都香の全てを雁字搦(がんじがら)めにした。 「……っ……ぁ、ふ……」 「……お前……あいつと、」 「……え……なに……?……あ」  微かな呟きが耳を掠めて、すっかり寄りかかっている姿勢から背後を見上げた。  壮介は苦しげに顔を(しか)めて、目を逸らした。
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