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「……懐かしいな。清子さんに貰った着物だろ」
納戸と廊下の間の敷居に立った壮介が、結城を纏った千都香を見て柔らかく笑う。
「気が付いてたの?!」
「当たり前だろ。着物も、帯も、下駄も……お前に、よく似合ってた。忘れられる訳が無い」
まっすぐ過ぎるほど、まっすぐな褒め言葉だ。壮介の優しい言葉など聞いた憶えの無い千都香の顔に、さあっと血が上った。
「……あの時は、そんなこと、全然言ってくれなかった……」
嬉しさでこそばゆくなった千都香は、逆に減らず口を叩いてしまう。
「首にするしないで散々やり合ったすぐ後に、言えるかよ」
「きゃ」
後ろ手に戸を閉めた壮介は、無造作に作務衣を脱ぎ始めた。下に白いV襟のTシャツを着ているのは前にも見たことが有るが、突然脱がれるとドキッとする──しかも、この状況だ。
納戸の空気が一気に重く濃くなった様な気がして、千都香はもじもじと俯いた。
「きゃって、何だよ。お前も脱いでんだろ」
「っ……戻って来ていきなり、脱がなくてもっ」
「あん?真っ先に脱ぐだろ、上着には漆付いてるかもしれねぇんだぞ。……お前も、それ脱いじまえ」
「見られてたら、脱ぎにくいっ……」
一人で脱いでいた時は思いもしなかったが、触って欲しいと強請った相手に見られながら脱ぐのは恥ずかしい。こんなことならいっそ丸裸になっていたら良かった、と千都香は極端な事を思った。
「……脱ぎにくい?脱ぎにくいから、脱がせて欲しいってか?」
「ぬがっ……ひゃ!」
壮介は千都香に近付くと、結城を揚げている腰紐の結び目を探り当てた。
ピンクの麻の葉に色とりどりの鈴が描かれたモスリンの腰紐は、千都香に似つかわしい愛らしさだ。輪になっていない紐端を引くと、途端に裾が床に落ちてくしゃりと山を作った。
「……先生っ……もしかして、脱がせ慣れてるっ……」
「変に取るなよ。和史の影響だ」
むっと突き出された千都香の唇に、壮介は笑いながら軽くちゅっと口づけた。
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