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陽弥は水を二口飲んで息を吐いた。
勇気を出して、隣の端正な顔を見る。
「色々とありがとう。レニーは恩人だよ」
「気にしなくていい。当然のことをしたまでだ」
いつもどおり無表情に近いが、目元がやわらいでいる。しかし、すぐに後悔の色が瞳に浮かんだ。
「むしろ、もっと早くに手を打つべきだった。もしまた何かに巻き込まれそうになったら、すぐに俺に言ってくれ」
「……ありがとう」
何度礼を言ってもたりないくらいだった。どうやってお礼をすればいいのかな。そう考えこんで、また沈黙が流れる。
レニーは何かを言いたげに陽弥の顔を見ていた。
何度も口を開けたり閉じたりしていることに気がつかない陽弥が、先に口を開く。
「嫌な思いをさせてごめん」
「嫌な思いなんて、まったくしていない」
何のことを言っているのかわかっていない顔に、少し安堵する。レニーにとってあれは、嫌なことじゃなかったのかな。
それとも、色々と経験豊富で、ああいうことに慣れているのだろうか。
胸にずきりと痛みが走った。それと同時に愕然とする。
どうして僕は、レニーに恋人がいる可能性に気づかなかったんだ?
「レ、レニー」
「ん?」
「あのさ……この質問は特別な意味を持たないんだけど」
嘘だ。本当は特別な意味を持っている。
「なんだ?」
「……恋人っているの?」
これでもし「いる」と答えられたら、どう責任をとっていいかわからないし、自分の気持ちを殺さなければならない。
陽弥は返事を祈る思いで待つ。
「いない」
「っ、本当に?」
「ああ、本当だ」
よかった、と口に出しそうになった言葉を飲み込む。代わりに「そっか……」と呟いた。
鼻から息を吐いてソファに体重を預ける。
レニーはずっとこっちを見ていた。ん? と首を傾げる。
「頭を」
そこで一旦言葉を切った。言いづらそうに続きを話す。
「頭を撫でてもいいか?」
「え?」
予想外の言葉にぱちぱちと瞬きをする。
レニーの目は真剣で、冗談を言っているわけではなさそうだった。
陽弥は戸惑いながらもうなずいた。
「うん……」
手が伸びてきて、髪に優しく触れられる。
頭の形をなぞるように動く手の感触が気持ちいい。
人に頭を撫でられるのは久々だった。
撫でるだけではなく、髪に指をさしこんで優しく梳かれる。
どきどきする陽弥とは反対に、レニーは柔らかな表情をしていた。
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