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「明日は休んでいいから。早く元気になってくれ」 「はい……ありがとうございます」 「もちろん私も心配しているが、君が店に何日もいないなんてことになったら、ディックス様が心配しそうだからね」 なぜディックスの名前が出たのかわからなくて、首を傾げる。それを察したように、ロバートは柔らかな声で言った。 「言っただろう、ディックス様はハルヤを気に入っているって」 朝の会話がよみがえる。それと共に、メッセージカードに、「気持ちの良い天気ですね」と書いたことも思い出した。 「君のメッセージカードをすべてとっておいているようだよ」 「え?特別なことなんてなにも書いてないはずですが……」 今までメッセージカードに書いた内容を思い出してみる。天気のことや、「良い一日を」「いつもありがとうございます」「お仕事がんばってください」など、特別なことは書いていないはずだ。 「あまり口数の多いお方ではないが、時々君について訊ねられるよ」 そこまで言ったロバートが、「体調が悪いのに長話をしてしまってすまない。お大事に」と口にしたため、またも詳しく聞けないまま電話を切った。 ロバートが来た時に聞けばいいか、と思った陽弥だったが、一度寝て起きるとすっかり忘れていた。 *** 「ハルヤ、今日もこれをお願い」 「はい」 ロバートにタンブラーをわたされる。いつもどおりそれを紙袋に入れて、メッセージカードとペンを手に取った。 今日は何を書こうかな。数秒考えて、「寒くなってきたので体調にお気をつて」と綴る。 僕が言えたことじゃないな、と小さく苦笑いをしながら紙袋に入れた。 前に人が立ったのは影で気づいた。 顔を上げた陽弥の目に映ったのは、背の高い男性だった。褐色の肌を覆う服の上からでも、立派な体格なのがわかる。無表情な顔は息を呑むほど整っている。ハンサムであり、猛獣のような力強さの中に、聡明さが滲んでいる。じっとこちらを見る瞳と髪は、夜の色だ。 男性の迫力に気圧されていた陽弥は、はっとして口を開く。 「ディックスさんの秘書ですか?」 いつも秘書が取りにくる時間だったので、そう訊ねる。 男性は眉を少し動かした。口を開いたところで、ロバートが彼の隣に立った。 「ディックス様、ご来店ありがとうございます。こうしてお会いするのは久しぶりですね」 「……ロバート」 男性がロバートに顔を向ける。二人が目の前で話す中、陽弥は目を見開いていた。 「彼がハルヤです」 驚きでぼうっとしている陽弥をロバートが紹介する。再び力強い瞳と視線が交わった。 「は、陽弥です。いつもありがとうございます」 男の色気を漂わせる手が差し出された。反射的に握手をする。 「レナード・ディックスだ。レニーと呼んでくれ」 にこりともせずに発せられた言葉に戸惑う。普段だったらうなずくところだが、気軽に呼んでいいものだろうか。 助けを求めるようにロバートを見る。目尻に皺を寄せた彼が小さくうなずいたので、「レニー」と小声で呼んでみる。 「……もう体調はいいのか?」 レニーがそう言うと、ロバートは「失礼します」と離れていった。こっちに向けて意味ありげなウインクをしたため、彼が陽弥が寝込んだことを教えたのだとわかる。
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