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「ハルヤ、別のところでも働いているかい?」 店に着いた陽弥がロバートへ挨拶をする前に、彼はそんなことを言った。 真剣な面持ちで、陽弥の返事を待っている。 「いえ、ここだけです」 戸惑いながら返事をした。けれど、ロバートの瞳は探るようにこちらを見続ける。 「本当に?」 「はい」 ロバートのほっとした表情は、ますます陽弥を不安にさせる。 それがわかったのだろう。彼は眉を下げて笑った。 「ごめん、不安がらせてしまったね。実は最近、この辺りで、アジア系の青年が身を売っているらしくてね……。君を疑ったわけじゃなくて、ああいうのは薬漬けにされた若者が無理やりやらされていることもあるから、ハルヤが何かに巻き込まれているかもしれないと心配になって」 「そうなんですか……心配してくれてありがとうございます」 「何も問題がなくて安心したよ」 ロバートへの感謝とともに、苦いものが胸に広がる。どういう背景があるのかわからないから何も言えないが、そういう商売を耳にすると気分が沈んだ。 陽弥は深呼吸をして、店に出る準備をはじめた。 *** トレッキングバイクにまたがり、ペダルに足を乗せた。 外はすでに薄暗い。会社帰りの人々が歩道を歩いている。 足に力を入れてペダルをこいだ。車道はそれほど混んでいない。 しばらく走っていると、自転車専用レーンに車が停まっていた。車道はちょうど、後ろから数台の車が走ってくるところで、陽弥はトレッキングバイクから降りて歩道を歩く。 立っている青年の隣を通る。 突然腕をつかまれて、身体が後ろへ引っ張られた。 「お兄さん、暇?」 「え?」 話しかけてきたのは、アジア系の青年だった。同い年くらいに見えた。こっちに向く瞳は、視点が定まっていない。 「俺と遊ばない?」 最初は彼の意図がわからなかった。 「何でもしていいよ。痛いのも大丈夫。ね、俺と気持ちいいことしよ?」 そこでようやく青年の言っていることがわかり、腕を振り払った。 もしかして、この人がロバートの言っていた人だろうか。
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