タカラジェンヌの闇

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タカラジェンヌの闇

「お母さん、大変!」 「どうしたの、雅子?」 「この新聞の記事見て。 現役のタカラジェンヌが自殺したって」 夏海は、雅子から新聞を受け取ると 問題の記事を見ていた。 その記事は、現役のタカラジェンヌが 公演の期間中に自宅マンションから 飛び降り自殺したというものだった。 「かわいそうに」 「薫には伝えたほうがいいかな?」 「そうね、いずれは外からの情報で 知ることになるのは目に見えているわ。 これを知ってから薫がどうするかは 薫自身の判断だと思うの」 「お母さん、あたしはイヤ! 薫が命を落とすのを見たくない!」 「雅子、あなたの気持ちはよくわかるわ。 でもね、最終的に決めるのは薫なの。 お母さんは薫の判断に任せるつもりよ」 宝塚歌劇団は、礼節を重んじている。 そのなかで舞台でトップスターとなるのは 一握りの確立であることを 夏海は身を持って知っている。 トップスターとなって3年になって 小百合の息子である幸四郎と結婚した。 初舞台を踏んでから1年目は、 夏海にとって辛く苦しいものであった。 その厳しい環境を乗り越えたのは、 小百合が盾となって守っていたからだった。 「おばあちゃんはね、 おばあちゃんの同期生つまり組長さんに お母さんを託してくれたの。 組長さんが盾になったおかげで 嫉妬による嫌がらせをされなかったの」 夏海は、研1だった時に雪組に配属された。 当時の上級生からの嫌がらせに悩んでいた 夏海は、当時の雪組組長だった 湊遥香(みなとはるか)から食事に誘われた。 その時に自分が小百合と同期生であること、 小百合から夏海を託されたことを 夏海に話をしてくれたのだ。 「あなたは、必ずトップスターになるわ。 小百合の代わりにあなたを育てていくわ」 「よろしくお願いします」 「ビシバシいくから覚悟してね」 それから夏海は、雪組組長湊遥香(みなとはるか)から タカラジェンヌとしての心得を学んだ。 そのおかげで夏海は雪組の上級生から 可愛がられるようになっていった。 「おばあちゃんと遥香(はるか)さんのおかげで お母さんはトップスターになれたと思っているの。 これは、薫にとって通過点になるわ」 「お母さん、わかった。 私もお母さんと一緒に薫を見守っていくわ」 タカラジェンヌの闇が噴き出してきた今、 薫の指針が決まるのだ。 「おばあちゃん、薫を見守ってくださいね」 夏海は、雅子と一緒に仏壇に手を合わせて 亡き小百合に祈っていた。
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