サクランボとサクランボのジェラート

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サクランボとサクランボのジェラート

薫が、宝塚音楽学校受験に向けて レッスンに通い出してから、 1カ月が過ぎていた。 この間、部活が終わってからの ハードスケジュールであったが 持ち前の体力で乗り越えてきた。 そして、薫がいつものように レッスンを終えて家に戻ってきた。 「ただいま」 「おかえり、おやつがあるから 手を洗いなさい」 「はーい!」 薫は、学校の制服から私服に着替えると 洗面所で手を洗って台所で戻ってきた。 「お母さん、今日のおやつは?」 「テーブルにあるサクランボよ」 「サクランボ、大好き! これ、誰からのお土産?」 「これは、近所の人からいただいたのよ」 「おいしそう、いただきまーす」 薫は、喜んでサクランボに 手を伸ばしていた。 そして、母の夏海は薫に 氷入りの麦茶を出していた。 「もう、麦茶を出したんだ。 もう、夏なんだね。 麦茶をロックで飲むのが最高の贅沢よね?」 「ただいま、お母さん。 私も麦茶をロックで入れて」 「お姉ちゃん、おかえり」 この家族の言うロックは、 「氷を入れて」ということである。 これは、父の幸四郎が水割りを飲む時に 氷を入れることで家族が冷たい飲み物を 飲みたい時に氷を入れてほしい時に 言っている言葉であった。 「はいはい、この調子だと 夏の暑い日に氷が必需品になるわね。 雅子、あなた手を洗ってないでしょう? おやつを食べるなら手を洗ってきなさい」 夏海に言われて雅子は洗面所に行って 手を洗って台所に戻ってきた。 そして、テーブルにあった サクランボを見つけた。 「お母さん、今年も城崎さんから いただいたの?」 「そうよ、城崎さんのご実家が サクランボの農園をしているから 今年もいただいたの。 最初は、サクランボの枝ごとで いただいたから驚いたわ」 そう近所に住んでいる 城崎さんの実家が、サクランボの農園で 毎年のようにサクランボを お裾分けしてくれていたのだ。 城崎さんは、夏海のママ友であった。 その付き合いは、今でも続き 家族ぐるみで交流している。 「あっ、そうだ。 あたし、おやつ出すの忘れていた。 これ、サクランボのジェラート。 私の行っている短大の近くに ジェラート屋さんがあるんだけど、 今月のフレーバーで出していたから 買ってきちゃった。 溶けるといけないから、 ドライアイスを入れてもらった」 雅子は、サクランボのジェラートを 家族4人分出してきた。 「うわーっ、今日はサクランボ祭りだ。 お姉ちゃん、ありがとう」 「薫、今度はジェラート屋さんに 連れて行ってあげるよ。 あんたの気に入るフレーバーが見つかるよ」 「行きたい、行きたい。 お姉ちゃん、連れて行ってね」 もうすぐ夏が来る。 夏が来ると冷たい麦茶が 必需品となってくる。 そして、氷の出番となってくる。 そんな夏の訪れを楽しみにしている 薫であった。
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