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趣味:超常現象研究
うちのぶっ飛んでる叔母さんの家に行くと、待ちかねたように叔母さんが門の所まで出て来ていた。
「譲、久しぶり?その子がおタケちゃん?」
めっちゃハイテンションで僕達に話しかける。おタケちゃんは礼儀正しく、
「お世話になります、竹と申します」
深々とお辞儀をする。
「そんなかしこまらないで、いいよ。今はそういう時代じゃないの?ねえ、あなたしっかりしてるけど幾つなの?」
「十八です」
「昔って数え年だから今だと十七歳、花のJKよ。えーとね、昔と今は年の数え方が違っておタケちゃんの年から一個引いた年をみんな使ってるの」
「ひとつ引くのですね。じぇーけーとはなんですか?」
「女子高生のことを呼ぶ略称よ。今の世の中は小学校を出るとほとんどの女の子が中学校だけじゃなくその上の学校にも行くの」
「それはお金持ちだけですよね?」
「違うわ。中学校までは親がどんなに貧しくても、親御さんがいなくても学校に行けるの」
「そんな夢のようなことが先の世の中では出来るんですね。すごい」
おタケちゃんが目を輝かせる。叔母さんは、
「そう。おタケちゃんみたいにね、入植してくれた人が一生懸命那須の地を切り開いてくれたお陰で、こんなに豊かな町になったのよ。県令や地元の名士の矢板さんや印南さんの統率力も素晴らしいわ。でもね、那須開拓の一番の功労者は汗をかいて、その手で土や石を動かして水路を整備した人だと私は思ってるの。だからおタケちゃんには感謝してもしきれないわ。ありがとう」
叔母さんが今度は深々とおタケちゃんにお辞儀をする。
「そんな風に言ってもらえると、おとうもおっかあもきっと喜びます。そして譲さんに聞いたんですが、物知りで偉い先生だとか。私はおとうとおっかあの所に帰りたいんです」
「そうよね、それでうちに来たのよね。まずあなたが触って光ったペンダント、ええと首飾りを見せてくれる?」
おタケちゃんは青い石のついたペンダントを叔母さんに手渡す。叔母さんは、
「取りあえず家の中に入りましょう。私が収集した書籍や研究の成果が活かせるかもしれないわ」
叔母さんはウキウキして言う。書籍は分かるけど、研究の成果って何だよ…。大卒の人間がエビデンスもない研究してるって…。まあ、今はこの人を頼るしかないけれど、頭のネジが100本位飛んでると思う。
叔母さんは家に入るとお茶とお菓子を出してくれて、それが食べ終わると書斎に案内してくれた。
本棚の左半分には怪しげな本がぎっしり。右側には教育関係のまともな書籍がぎっしり。勉強熱心な良い人なんだろうけど、左半分の超能力やら超常現象の研究を趣味にしてるから、男運どころか男がまず寄り付かない。
叔母さんは机から一冊のファイルを取り出すと、
「タイムトラベルは時空の歪みによって起こると考えられていてね、その狭間に入って時間を飛び越えてしまう人には心理的にもうここにはいたくないという切実な願いを持っていることが多いの」
おタケちゃんにはちょっと難しい話のようだ。
「先の世の中や昔に行ってしまう人は、本当はここにいたくないって思うことがあるんだって。何か思い当たることはある?」
おタケちゃんは少し気まずそうに、
「旨い物が食べたい、綺麗なべべ着て華族さまみたいな暮らしがしたい、おとうもおっかあも華族さまなら良かったのにと罰当たりなことを考えていました」
叔母さんはおタケちゃんに、
「罰当たりなんてそんなことはないわ。今の世の中でもみんなもっと美味しいものを食べて綺麗な格好をしたいと思ってる。お金持ちの家に生まれたかったってみんな思ってるわよ」
優しく諭すように言う。そして、
「そのペンダント、今の世の中では首飾りをペンダントと呼ぶんだけど、それが何かのキーアイテムになってる。キーアイテムっていうのは、鍵になる物という意味で、タイムトラベルをする人は、そういうキーアイテムにうっかり触ってしまう人が多い。顕微鏡で見て見るから貸して貰えるかしら?」
俺は叔母さんの説明を聞いて慌てる。
「また触って叔母さんがタイムトラベルしたらどうするんだよ?」
叔母さんは何も知らないのねと呆れたように、
「私は研究が楽しくてしょうがないから大丈夫。この世界、今この時を、私ほど生き生きと楽しんでる人は、世界広しといえども、そう何人もいるとは思えないもの」
自信たっぷり。まあ、この人ほどお気楽な人も世の中広しといえどもいないだろう。
おタケちゃんが渡したペンダントの石を顕微鏡にセットして叔母さんは顕微鏡を真剣に覗き込む。叔母さんは顕微鏡を覗いたと思ったら、何かを熱心に大学ノートに書き込んでいる。そして、
「これは…私の顕微鏡では無理かもしれないわ。大学の研究室で、表向きはまともな研究をしていて、実はタイムトラベルの研究もしている友人がいるの。彼の力も借りたいわ」
僕はおタケちゃんの深刻そうな顔よりも、
「叔母さん彼氏いたの!?」
先に驚きの声が出てしまう。叔母さんは、
「彼氏…懐かしい響きね。バーカ、そんな関係な訳ないでしょう。研究仲間よ。譲のようなお子ちゃまには男女の友情なんてわからないか」
彼氏という単語がよほど気に障ったようで、嫌味を言われてしまった。おタケちゃんが心細そうに、
「あの、何か分かりましたか?」
尋ねてくると叔母さんは、
「この石はとても不思議な力を持っている。一般人が手に入れることが出来る顕微鏡で分かることは少ないの。この私が覗いてたものは顕微鏡と言うんだけど、もっと色々なことを調べられる道具が大学という場所にあってね。そこにオバサンの友だちがいる。友だちに協力してもらいたいんだけど、おタケちゃん。いいかな?」
おタケちゃんは状況を理解したらしく、コクリと頷くと、
「よろしくお願いします」
また丁寧にお辞儀をした。
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