泡沫の君と

3/8
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 私は肩に掛けていたバッグを斜めがけにし、苦笑しながら手を差し出した。  よろけつつも、何とか支えて立ち上がらせる。立たせてみると、思ったよりも上背があった。  ちょっと猫背気味でこれってことは、180くらいはあるのかな。 (あ……)  一緒に歩き出し、ふと思い出したように背後を振り返る。  だけどそこにはもう、さっき見た黒猫の姿はどこにもなかった。 「家どこ?」  通りに出ると、タクシーのことを考えながら、当たり前のように問いかける。すると彼はなんだか妙に楽しげに、だけどどこか寂しそうに、「今日は帰れない」と言った。  私はそのまま彼を自宅に連れて帰った。  だってそんな表情(かお)をされたら、突き放せない。  幸い、明日からはリフレッシュ休暇で三連休。  彼氏と別れて一月ほどだった私の家には、男物の服がまだ少し残っていた。  だからと言うわけじゃないけど、ちょうどいいとも思った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!