泡沫の君と

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* * *  特にこれといった予定もなかった私は、もう一日泊めてと言ったその子を、言われるままに部屋に泊めた。連休は連休で嬉しかったけど、暇だったのでそれもまたちょうどいいと思った。  日中は少し買い物に出かけた。  冬に向けて新しいストールが欲しくて、だめもとで誘ってみたら意外と快くつきあってくれた。 「これ、お礼」  途中、内緒で買ったTシャツを、家に帰ってから押し付けるように渡した。不思議な色合いの瞳に似合うと思った、真っ白な長袖のTシャツだ。 「お礼なんて、俺がする方なのに」  言いながらも、受け取ってくれてほっとした。 「なんか、久々に楽しかったの。デートしてるみたいで」  別れた彼とは、もう半年くらい微妙な関係だった。半ば義務みたいに感じるデートはデートなんかじゃなくて、作業みたいな関係は愛を確かめるようなものではなかった。  お互い好きな相手ができたわけでもないのに、自然と別れようという結果に落ち着いたのが唯一の救いだ。  思い出しても、特に心は痛まない。  もうきっとずっと前から、気持ちが離れていたからだ。  そんな私の枯れた心に、彼との時間はちょっとしたときめきを与えてくれた。だから、その、お礼。 「いつまでだっていてくれていいよ。私はね」  たった二晩一緒にいただけなのに、気がつくと彼は私の懐の奥まで入り込んでいた。もう少しだけ一緒にいたい――この気持ちがなんなのかは分からないけれど、このまま二度と会えなくなるのは嫌だと思った。  彼は昨日、明日も泊めてと言った。  だけど今日は、明日も泊めてとは言っていない――言ってくれない。
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