泡沫の君と

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 私はおそろいのマグにホットコーヒーを入れて、彼が座っていたソファの前の、小さなローテーブルに置いた。その一方を彼へと差し出しながら、 「最近ね。私よく黒猫を見るの」  本当に告げたかったのは、「明日も泊まっていくでしょ?」だったけれど、実際に口をついたのは別の言葉だった。  ラグの上に座り、マグに手を添えながら笑った私に、彼はかすかに「うん」と頷いた。 「あの猫が、君との縁を繋いでくれたんだなって、ふと思って」  彼に向けて、笑みを深める。だけどあんまりうまく笑えていないかもしれない。  彼とまっすぐ目が合った。なのにその視線はすぐにほどける。  彼は手元のマグへと視線を落とし、それをなんだか逸らされたように感じた私は、少しだけ気まずいような心地になって、自分も自分のそれへと向きなおった。  すると彼が呟くように言った。 「本当はね。ずっと見てたんだ。――あなたのこと」 「え?」  思わず再び彼を見た。  彼は長い睫毛を伏せて、少しだけ苦しそうに続けた。 「あの黒猫は……俺の」 「え……え? そう、なの?」  彼の言葉に、私は目を見張るばかりでろくな反応が返せない。  返せないまま、ただマグを持つ手にじわりと汗が浮かぶのを自覚する。 「迎えに来たんだ。あなたの中身を」 「中、身?」  かろうじて、かすれた声で反芻した私を、彼は射貫くようにまっすぐに見た。 「――あなたが、明日死ぬのを待って、連れて行く」
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