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* * *
川の畔にある遊歩道を、並んで歩く。繋いだ手はやっぱり温かい。
一歩一歩と進むたび、東の空が、少しずつ明るくなってくるのがやるせなかった。
「あ……」
視界の端に、ひときわ明るくなった夜明けの空が映る。彼の着た白いTシャツが淡い光に照らされて、なんだか本当にその背に翼が見えるようだと思った。
繋いだ手に力を込めると、応えるように彼は私をやさしく抱きしめた。
「ごめん、もう時間だ」
ちょっと名残惜しいけど、と言い聞かせるように囁いて、ぎゅっと強く抱きしめてくる腕が今更胸を締め付けた。
――待って。
言いかけた言葉を、ぐっと飲み込む。
鼻の奥がつんとして、たちまちこみ上げてきた涙がこぼれるまもなく、
「あ……」
その腕の質量が、密着していたはずの存在自体が、嘘みたいに消えていく。
やがて押さえられていた髪の毛が、重力のままに下へと落ちて、緩やかに宙を舞った。
「――くん!」
呼んだつもりの名前が声にならない。
かと思うと、突然強い風が吹き荒れた。
髪の毛が巻き上げられるようになびいて、それをとっさに手で押さえる。
「またね」
忘れ形見のような彼の声が、あっけなくかき消された。
「……くん……?」
風が止み、目を開ける。
そこにはもう、誰の姿もない。
END
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