いとしのびすこ番外 あなただけ見えない

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いとしのびすこ番外 あなただけ見えない

いとしのびすこ番外  あなただけ見えない 「びすこ、これ欲しくないか?」 新春初売りのチラシを見ていて、和臣(かずおみ)さんが俺を手招きした。 「あ、欲しい!」 「じゃあ買いに行こう!」 それは駅前の電気屋さんのチラシで、たくさんの家電達が大売出しに出されている。 俺達はその中で、最近俺達の間で熱く話題に出ているものを見つけた。 いつもは、和臣さんが俺のためになんでも買ってきてくれて、そんなに俺のためにばっかお金を使わせるのは悪いな、と思うのだけど、俺もちょっとずつお金が溜まってきたし、これは自分でも良いなあと思っていたものだったので、二人でお金を出し合って買うことにした。 「びすこ、なんだいそいつは」 ポケットの中から、早速ケイタイ君が絡んでくるので、 「これはホットサンドメーカーさんだよ」 俺は教えてあげる。 この間テレビで似たようなのを観たのだ。 これで熱々のたまごサンドとか、ハンバーグサンドとか作れるし、直火用ではなくて電気式のは、プレート部分がワッフル用とか大判焼き用とかに差し替えられる優れものもあるのだ。 チーズがとろーりとしたホットサンドをテレビの中の人がばくばく食べてるのを見て、 「わー、うまそうだなあ」 和臣さんは羨ましそうにしたので、俺も和臣さんにあれを作ってあげたい。 ++++++++++ 一緒に色々食材を買い込んで、いそいそと電源を入れてみる。 「最初はやっぱり、ホットサンドを作ろう」 「やあ、こんにちは。ちょっと具材をはみ出させると、そこがかりかりしておいしいんだよ」 「そうかあー」 俺達の憧れの眼差しを受けても、慣れきっているのか、ホットサンドメーカーさんはそんなワンポイントアドバイスをしてくれる。 「おせちの残りとかを入れても良いよ。そういうのをアイデアサイトにのっけても良いよ」 でも、おしゃれ家電の自覚があり過ぎて、ちょっと余計なお世話気味なのが玉に傷だ。 「そういうのはな、びすこ達はやらないんだよ!」 「びすこ、なんかこいつインテリ系で気に食わないぜ」 案の定、他の皆からは非難の的である。 「まあまあ」 「じゃあ、お言葉通りおせちの残りの、ハムを挟もう。きんぴらも」 今年は暖冬であるので、なんと俺は、まだ眠りの来ないまま、年を越してしまった。 和臣さんは大喜びして、クリスマスにはいくつもケーキを買い込んで、お正月用にとたくさんおせちやお餅を買い込んでしまったので、俺達のうちにはまだおせちの残りがいっぱいあった。 それをホットサンドにして、二人してふうふう言いながら食べる。 「おいしいねー」 「うまく挟めたらお弁当用にもなるな」 和臣さんは言うと、ワッフル型のプレートを手にし、 「今度はこれを食べてみよう」 と笑う。その途端、 「あ、それはやめた方が!ワッフルはきっと、おいしくありません……!」 ホットサンドメーカーさんが嫌がりだした。 「え、なんで?」 「そうだよ、ちゃんとホイップクリームも買ってきたんだから、作りたい」 「だ、だったらせめて鯛焼きの方にしてください……癒されること、間違いなしです」 不思議な俺達は首を傾げたけど、ホットサンドメーカーさんが泣きそうであったので、 「じゃあ言われた通り、先にこっちにしようか」 「中身もあるしね」 鯛焼きのプレートを先に乗っけて、鯛焼きを焼いてみることにした。 餡は、これまたおせちの残りの栗きんとんだ。 生地の真ん中に栗きんとんをぺっと乗っけると、 「ちゃんと、しっぽの方にも中身を詰めるんだよ!」 「わっ」 ちっちゃな男の子が喋りだした。 「お口の方にも詰めてよー」 「えええ……」 声はさっきのインテリ系のお兄さんなのに、喋りだけ赤ちゃんみたいに舌っ足らずになってぷりぷり怒っていて、俺と和臣さんはびくびくとしてしまう。 「ははーん、プレートを入れ替えると別人格になるんだな」 「鯛焼き坊やだ。じゃあ、ワッフルはどんなのが出てくるんだ?あんなに嫌がってたぜ」 テレビ君や壁掛け時計氏はぺちゃくちゃと喋り、 「おい坊や。ワッフルのプレートはどんな人なんだ?」 鯛焼きを焼いている途中の坊やに尋ねた。 「ワッフルお姉ちゃんのこと?」 「おお、姉さんなのか」 栗餡の鯛焼きも、これまた熱々でおいしい。 「じゃあ次はいよいよワッフルだ」 「鯛焼き食べながら、焼いてみようか」 鯛焼き坊やはワッフルお姉さんのことを嫌がらなかったので、和臣さんがプレートを入れ替えてみた。すると、 「あら、こんにちは。はじめまして!ワッフルよ!」 ちょっと色っぽい声音になって、ワッフルさんは挨拶をしてくれた。 でも声はホットサンドメーカーさんの声のまんまなので、 「そうか……姉さんてそっちのおネエさんか……」 和臣さんはにやにやとした。 「はじめまして。これからよろしくな」 「俺、ワッフル大好きなんだ。甘くっておいしいよね」 「あら、ありがとう!私のことを好きだと言ってくれる人は多いのよ。でも、好かれたいと思う人からは、なかなか好かれない……。切ないものね」 俺達がまた憧れの目を向けると、ワッフルさんは喜びながらもなんだか淋しげな声になった。 「お姉さんは、サンドさんのことが好きなの?」 「切ない片想いなのよ。……同じ時にはプレート上で活躍できないから、めったにお逢いできないしね……。ところで、ここには随分色んな人達がいるのね」 ワッフルさんは壁掛け時計氏やパソコン嬢をきょろきょろ見回しているうちに、段々元気を取り戻してきた。 「はじめまして」 彼女が言うと、 「どうぞよろしく」 「そのワッフル柄、とっても可愛いじゃなーい」 皆も口々に挨拶を返してる。 「サンド様は、一見つんつんしてるけど、本当は一本気であったかい人なの。仲良くしてあげてね」 「……」 あんなに嫌がられていたのに、懸命にサンドさんをたてるワッフルさんの姿に俺はうるっときた。 でも、なんか皆は無言だ。戦況はかなり不利だと思っているみたいだった。 けれど俺はワッフルさんをすごく応援したくなった。 生地の真ん中に、ホイップクリームをたくさん詰めたワッフルさんは、とっても甘くってふわっふわしてておいしい。 和臣さんと二人しておいしいおいしいと喜ぶと、 「びすこ達ばっかり、大ごちそうだ」 「そんなに食べてばっかだと太るぞ、びすこ!」 皆はぶうぶうと文句を言った。 俺達は大満足で、後片付けをすることにした。 プレートを洗うので、全部外してふやかすために大きなたらいにお湯を張る。 プレートの皆をお湯につけると、 「とっても良いお湯ね」 「近寄るな……」 「ねえ、泡ぶくぶくにしてー、びすこ!」 「えっ」 三人が一斉に喋り始めた。 電気はもう通っていないのだけど、プレート上で浴びた分が残っているのかな?三人が一緒になる時が、ここにあった。 「しばらくふやかしておかなくっちゃね」 「そうだな。ネエさんはお風呂が大好きみたいだからな」 こうして、新しい仲間がまたやって来た。
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