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エピソード FILE2
カランカランと喫茶店のドアが開いた。
「林檎ちゃん、久しぶり」
「あらっ、冴子じゃん。久しぶり」
そう、この冴子は林檎ママの
中学からの親友である。
冴子は、現在高知県にいる。
林檎ママは、まだOLとして
働いていた時に冴子の母親が他界した。
その時にお葬式に行ったほど
家族ぐるみでの交友関係があった。
そして、林檎ママの実母が
他界した時も遠方であることを
考慮して弔電を送ってくれたのだ。
ここまでが前提である。
「冴子、今日はどうしたの?」
「うん、大阪にいる私のいとこから
連絡があってUSJに行くことになったの」
「いいじゃん、私も和博と
行ったけど楽しかったよ」
「そうそう、和博くん元気なの?」
「元気、元気。昔のCMであったじゃん。
亭主、元気で留守がいいって」
「それ、あたってる」
林檎ママと冴子は、
二人で大笑いしていた。
ここまでだと久しぶりの
会話であるのだが、
ここからが本題となっていた。
実は、林檎ママと冴子の高校時代だが
二人が同じクラスになったのは、
高校3年生の時だけであった。
この時の担任を二人は
良く思っていなかった。
「ホントにさ、1年と2年は
お互いのお古だねって言っていたけど
3年の時は最悪だったね」
「ホンマに、あのクソババァに
振り回されたわ」
この時に、林檎ママの夫である
和博が店に出てきた。
「おいおい、そのクソババァは
やめろって言っているだろう。
客商売するからには、言葉遣いを
考えろって言ったよな?」
この時、林檎ママも
負けてはいなかった。
林檎ママは、和博の悪行を
冴子にぶちまけたのだ。
「あのさ、あたしらの結婚式が
日延べになったのわかってるの?
あんたが、しょうもない因縁つけて
相手が意識なくなるまでどついたのを
あたしが知らないと思っているの?
せやけど、千秋がおなかにおったしな。
それにあんたが、とある
缶コーヒーのCMに出ていた
癒やし系の女優と
紛らわしいことしたのを
聞いているんだよね」
「ちょっと、林檎ちゃん。
それは、オレが全面的に悪かったの」
「へぇーっ、あんたがさ癒やし系女優に
復縁迫ったって聞いているよ?」
「ちがうよ、林檎ちゃん。
彼女は遊び仲間なの」
「遊び仲間なのに、
なんで復縁を迫ったわけ?
あっ、そうや。
ここに、冴子がいるから
爆弾を落としてかまへんか?」
林檎ママの言う爆弾は、
もう15年前に国営放送の
紅白歌合戦の常連である女性演歌歌手に
和博がのぼせたことであった。
「ちょっと、林檎ちゃん。
それは、もう時効でしょ?
お願いだから、
それだけは言わんといて」
「調子にのるな!
あたしが、修羅場っていたのを
千秋と小春が見ていたんだよね?」
「あのね、あの時千秋と
小春に怒鳴られたよ。
お父さんは、お母さんより
好きな人がいるのって。
それで、千秋と小春に
話をしようとしたら、
テーブルにおまえの置手紙と
白紙やったけど離婚届が置いていた。
置手紙を書かせたのは悪かった。
だけどね、なんで
離婚届を置いていたの?
オレは、林檎ちゃんが好きだよ。
千秋と小春が生まれた時は
うれしかったんだよ。
ねぇ、まだ怒っているの?」
「あんたが、あのクソババァに
のぼせる前は、和服が似合っていて
艶っぽくてステキな女性やと思ってた。
和服美人って、彼女のことを
言うんやなって憧れていたんよ。
だけどさ、仮にもあたしと冴子よりも
一回り離れた女にかわいい女性やって
言ったことがマジでムカついてん!」
そう言うと、林檎ママは号泣していた。
そんな林檎ママを冴子が寄り添っていた。
「林檎ちゃん、ごめんね。
オレは、林檎ちゃんが出て行った時に
警察に捜索願いを出していた。
林檎ちゃんに帰ってきてほしかった。
そしたら、羽曳野市にある
大きな川に身投げしたと聞いた。
それで、搬送された病院に行った。
薬を大量に飲んでいたけど致死量には
至らないと教えてくれた時は
生きていてよかったと思ったよ。
林檎ちゃん、オレには
林檎ちゃんが必要なんだよ。
ねぇ、お願いだよ。
千秋と小春の花嫁姿を見ようよ」
この時和博の言った言葉は、
林檎ママへの本心であった。
和博が愛しているのは、
家族であることを思い知らされた。
林檎ママが自殺未遂をはかった時に
和博に多くの報道陣が来ていた。
その時に和博は、妻と子供がいますと
自分自身のことを打ち明けた。
そして、自分の不徳の至らなさから
妻を苦しめましたと言ったそうだ。
それからは、和博が女性問題で
世間を騒がすことはなかった。
これは、ある意味で林檎ママの
苦しい思いを吐き出したのだろう。
今は、千秋と小春が社会人となり
和博と林檎ママだけになった。
和博は、林檎ママと夫婦で
過ごしていこうと思っていた。
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