(2)沈丁花

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(2)沈丁花

「何だか沈丁花の香りがしない?」  女子生徒が朝から話をしていた。僕にはわからなかった。沈丁花の香りは好きだが、何も感じない。だから気に留めなかった。  二時間目の授業は体育だった。着替えのために女子は隣の教室へ行き、男子だけになった。  貧弱な体の僕は隅っこの席で、こそこそと着替えていた。 「なあ、やっぱり沈丁花の香り、するよな?」  クラスで一等体格のいい杉原が言った。江藤がそれを受ける。 「するする。すっごく甘酸っぱい良い香り」 「何かこう、ぞわぞわしてくるよな」 「股間に来るって言うかな」  一瞬の沈黙の後、杉原が言った。 「オメガ、いるんじゃね?」  視線が一斉に僕に向いた。  このクラスで第二の性別が判定されていなかったのは、僕だけだ。 「竹沢」  杉原と江藤が近づいてきた。二人ともアルファだ。 「お前の近く、すげー匂いが強いんだけど」  手首を捕まれた。 「放して」 「やっぱりこいつ、オメガなんじゃねぇの? 顔も女みたいだし」  違うと言えなかった。僕は子どもの頃から自分がオメガであることを聞かされていたから。  その瞬間だった。ぶわっと沈丁花の香りが僕を包んだ。 『初めての発情期は突然来るよ』 『アルファが近くにいると、いっそう香りが強まりやすい』 『逃げることだね』  大奥様の言葉が頭によみがえった。  しかし既に手首を握りしめられている。 「コイツ、ヒートしやがってる」  杉原が興奮して大声を出した。  救いを求めてクラスメイトを見た僕は、絶望した。  アルファどころか、ベータの男子まで僕をらんらんと見つめていたのだ。  足払いを掛けられ、床に押し倒された。  短パンと下着をずり下げられる。  突然で急激な発情期は僕自身の体をも蝕んでいた。 「生意気におっ勃ててるぞ」  机や椅子の脚の影に近づいてくる無数の脚。膝を割られて杉原が体を入れてきた。杉原が自分の短パンと下着をゆっくりと下げると、僕のとは比較にならない凶悪で大きな雄が現れた。誰かの手が、僕の体を押さえつける。膝裏を持ち上げられ、尻が浮く。ぬるっとした何かがお尻の穴に当てられる。 『逃げられなきゃ、思い切り叫べ』 「いやあああぁあぁあぁぁぁーっ」  僕は絶叫した。
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