深宇宙の先へ

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 「深宇宙探査船、ボイジャー3号、最終チェックスタート」  「大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ」  いつから、この言葉を繰り返していたことだろう? 私の頭脳にはもうこの言葉しか存在していないのではなかろうかと、訝しむほどだ。  あ! 訝しめたってことは、この言葉を繰り返す機能しか残っていたわけではない、ということだ。良かった……。  他のことを考えて、気を紛らわせられたのは、コンマ7秒たっだ。コンマ8秒後、私はまた、大丈夫だ、大丈夫だ、の渦の中に自分の思考を沈めた。  そうしていなければ、不安だったからだ。  「ソーラーセイル開閉システム、異常なし」  「メインイオンエンジン、サブエンジン、双方異常なし」  「対外障害物排除機構、異常なし」  「通信機器チェック完了、異常なし」  「センサー、カメラ。全て異常なし」  「大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ」  ソーラーセイルの開閉手順は、何も考えずにできるぐらいやり込んだ。  なんかにぶつかりそうになっても、障害物を排除する訓練もこなした。  太陽フライングバイのシミュレーションはもう、千回以上やった。  道順を示す、プログラムにも異常がないことは確認済みだ。  でもそれらは全部、デジタルの仮想シュミレーターの中でのことだ。現実はぶっつけ本番。それが怖い。  「大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ」  自分がこんなに怖がりだなんて!  「大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ」  太陽のフレア。  岩石の水星。  テラフォーミング中の火星。  エウロパの間欠泉。  まだ調査の進んでいない、準惑星のエリス。  オールトの雲の中も進める。  他の探査機たちがとってきた写真を、ライブラリーから引っ張り出してきて眺める。それらを今度は自分が見る番だって、最後にワクワクしたのはいつだっただろう? ここから出て本物を早く見たいって、ずっとドキドキしていた。でも、実際出発する今になったら、怖くて仕方ない……。  「大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ」  そうだ! 太陽系の中だけじゃない、惑星のある恒星系の近くを通りかかったら、寄り道できるようにと、方向転換用のサブエンジンも積んでいる。まだ、誰も見たことのないものを、この目で見られるんだ! ……無理やりそこに思考を持って行こうとして、失敗した。  そんな遠くに行っちゃったら、誰も助けてくれない! 本当の独りぼっちだ。もし故障したら……?  それに、もしもしもだよ、万が一地球外生命体に捕まって解体されたりしたら……。  ううっ。不安の増す想像だけが、私の中に広がっていく。  でも、私の不安にかかわらず、外では出発の準備が整っていくようだった。
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