鉱石に季節を。

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 淡い緑のようなフローライトの朝陽が大地にカーテンを敷く。大きい荷物を抱えたミヌレが自転車に跨がって五月が近くなった。遅咲きのたんぽぽが風に揺れる。 「んじゃ行ってきます」 「うん、行ってらっしゃい」  いつもの夜を超えて、いつもと違う朝を見送る。ペダルにかかった足のせいでミヌレが遠くへ行ってしまう。ポケットのなかに握った隠した言葉を、つっかかった想いに伝えて走りだした。 「ミヌレ!!」  風が吹くと、久しく巡ってきた季節に郷愁がさしていつもの風景が恋しくなった。けれど、だから、また君に新しい季節をあげよう。  ミヌレは足をとめて振り返った。息切れして隠した言葉を彼の掌に差し出した。それは朝陽に呼応するようにぬくもりに満ちている。ミヌレは掌にのった黄緑の輝きをもの珍しそうに眺める。 「スフェーンなんてよく見つけたな」 「箱のなかに入ってた。削ったから小さくなっちゃったけど、綺麗だね」 「……そうだな。またお前に貰ったな。じゃあ、行ってくるよ」 「うん、行ってらっしゃい」  小さくなるミヌレを見送ってからムーンストーンを指でなぞる。変わるものと変わらないもの。君と私の風景のなかで、また季節が巡った。見たことのない風景だ。 「今夜は三日月かな」  私は振り返って新しい季節の元へ帰った。フローライトの余韻がアクアマリンの青空に溶けてまた風が吹いた。  君に言葉を、私に光輝を。鉱石に季節を。
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