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まるでラピスラズリの夜空だ。
薄ら紫がかった濃紺のなかに輝く星は宝石のそれだ。今日は新月だから星がよく見える。窓から南十字星の空を眺めて浸る誕生日の夜。なにもない、ケーキもプレゼントも記念日の言葉もない。あるのは採れたての鉱石を覗いている同居人だけ。いつもと変わらない風景。季節を巡る夜空の下で同じ季節を繰り返す私たちのいつもの風景。
今日も変わらず琥珀糖を食べる。ムーンストーンのペンダントが白く、淡く輝いているのを思い出して同居人になんでもない言葉をかける。
「その鉱石、何に使うの」
同居人は鉱石をルーペで覗いては指で優しく撫でたり、鉱石を夜空にかざしたりして私の言葉を素通りする。彼に宛てた言葉が私の独り言になるのもいつもの風景だ。
彼が、ミヌレが今見ている鉱石はエメラルド。透き通るような、光を反射するような緑色は硬度は高いけれど衝撃に弱く傷つきやすい特徴がある。
エメラルドは緑柱石と呼ばれる鉱物グループであり、青色のアクアマリンやピンク色のモルガナイトの仲間らしい。
琥珀糖を食べながら眺めているとその視線に気づいたミヌレがようやく言葉を返した。
「なに見てるんだ」
たった一言だけ。その一言でいつもの季節が動き出す。視線は鉱石に、言葉は私に。きっとまだ気づいていない。今日がなんの日かを。ムーンストーンにそっと指を置いた。
「もうすぐ五月だなって思っただけ」
今日がなんの日か気づいてほしいわけじゃない。もうすぐエメラルドの月がやってくると純粋に思った、ただそれだけ。ミヌレの次の言葉を待ちながら琥珀糖を食べる。
「そうだな。五月は天気も気温も安定するから長時間鉱石を探しやすい。だから五月は好きだ」
ほら、やっぱり。私の誕生日はすっかり忘れている。でも嬉しい。私の独り言が一人にならなかった。二人の間に巡る季節を南十字星が照らす。少し思い切って昔の話をしてみようと思う。
「五年前の月の形って覚えてる?」
月の満ち欠けは約三十日と言われている。つまり、新月から次の新月になるまで約一ヶ月。
五年前の月は新月だった。彼は新月の誕生日に月をくれた。
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