鉱石に季節を。

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「五年前なんて覚えてないよ」  素っ気なさは五年前と変わらない。シトリンの黄色い輝きも五年前と変わらない。いつもの風景だ。 「本当に変わらないんだね」 「なにが?」 「なんでもない」  誤魔化すみたいに琥珀糖を食べる。変わらないものへの愛おしさ。変わるものへの好奇心。どちらも大切でそれが今の私たちを作ってきた。さぁ、明日はなにをしよう。 「明日から鉱石を探しに遠くへ行くよ。街の向う側。新しい採掘場所が見つかったらしい」  ミヌレは嬉しそうに語った。彼は鉱石のためならいつもと違った風景に出会いに行く。彼の季節にはいつも色の違う鉱石があった。 「リュヌも月でも星でも観に行けば?明日は三日月になってるだろ」  いつもの風景のなかにいる彼は私に新しい季節をくれる。私もまた、あなたに季節をあげよう。 「私はここに残るよ。採れた鉱石見せてね」  ミヌレは小さく返事をしてエメラルドを瓶に入れた。部屋の隅にある大きな棚にはミヌレが今まで採った鉱石が並んでいる。色とりどりに輝く鉱石たちはラピスラズリの夜空よりも綺麗だ。ムーンストーンのペンダントをタンザナイトの夜空に映して最後の琥珀糖を食べる。 「そろそろ寝るよ。明日はなるべく早く家をでたい。リュヌはまだ起きてる?」 「うん、もう少しだけ」 「そっか。おやすみ」 「おやすみ」  いつもの終わりの言葉を交わしてミヌレは自室に戻った。結局今日がなんの日か、彼は覚えていなかった。恋しい夜と好奇心に満ちた朝がやってくる。私は使わない鉱石の箱のなかからスフェーンを取りだした。黄緑色が眩しく輝く。今夜は月がなくても平気だと思った。
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