『kの回想』 2

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『kの回想』 2

西暦751年 タクラマカン砂漠の北にある天山山脈北西部の タラス河畔(現在の中央アジア、キルギス領)で、高仙之率いる唐軍は、カルルク族の寝返りによりイスラム軍に敗北した。以後、ソグディアナのイスラム化が急速に進んだ。 ソグディアナとは、昔ソグドと呼ばれた人々が住んでいた中央アジア、今のウズベキスタン、タジキスタンの辺りである。 そこはユーラシアの中央に位置し、古来より東西の交通の要所として栄え、住民の半数が商人であると言われてシルクロードを支配していた。 その人々は751年の戦いを境として急速にその姿を消していったのである。 その5年後に東方の唐で安史の乱と呼ばれる内乱が起きた。この胡人(イラン系と言われる人々)による反乱は9年に渡り、それが鎮圧された後には唐の国内では胡人に対する弾圧の嵐が吹き荒れた。 その為、唐国内にいた東方ソグド人もやがて姿を消していったのである。 2001年9月 芦名思魔は、ホテルのベッドの上でぼんやりとタバコの煙をくゆらせていた。テレビでは、貿易センタービルにジェット機が突入する映像が繰り返し流れていた。 高層ビルは崩壊し茶色い爆煙が吹きあがり、人々の逃げ惑う姿と助けを求める悲鳴が繰り返された。 前の夜、彼は不思議な夢を見た。大勢の人々が、北方の山中に逃げていたが、そこへ騎馬の軍隊が襲い掛かり人々は虐殺された。 逃げ惑い助けを求める声が耳に残り、彼は夢中になって人々の元へ走ろうとした。しかし、真っ暗な穴に引きずり込まれ、自らが危地に立ってしまう。 そこで目が覚めたのだ。 彼はテレビの映像と、夢との区別がつきにくかった。 ただ、あの夢の中の叫び声は心に残っていた。
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