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渡部 信五 43才 死体芸術家
「これはいい素材だ…茶髪の乱れたロングヘアー、乾いた紫色に近い唇。そして何より全体的に締まったスリムボディ。フフ。どんどんアイデアが出てくる!」
僕の手は自然とその女性の顔を撫でるように触っていた。
「じゃあこれにするよ。」
近くに居た男性に声をかける。
「分かりました」
その男性が表情を変えずに答えた。
僕は男性の答えを聞いて僕の隣に置いてた黒いスーツケースを横にさせてチャックを開けてケースを開けた。
次にコートのポケットからゴム手袋を出して自分の両手にはめた。これが意味するのは作品を汚したくない為。
ゴム手袋をはめ終わると
「ハッ、フッー。ハァ。ハァ」
全身から作品に対しての興奮、期待がゾワゾワと溢れ出してきて外に出さぬよう口元を固めていたがそれをも遮って声にならない興奮が出てしまった。
いよいよ作品に手をかけた
横たわった状態の女性をお姫様抱っこで抱え上げてスーツケースの中に体育座りのような形でしまいこんだ。普通のスーツケースより大きめのサイズだから普通に入った。
入るのを確認してからスーツケースを閉めた。締め終わると僕は「フーッ」と大きく息を吐き自分の腰に手を当ててストレッチするかのように背を伸ばした。
いくら死んでるとはいえ一般の女性を抱え込むのは43の僕にはキツイ。
なんせ数え切れないほどこの作業をやってるから腰痛の予兆が出てしまってる。
一息僅かな休憩を終わらせるとさっさとスーツケースを横の状態から立てさせていつでも出れる状態にした。
「じゃあまた宜しくね先生。」
僕はそう言い残してその場を作品が入ったスーツケースと共に去った。
部屋を出ても興奮さめ止まない僕は
「フン〜フンフンフン〜」
と鼻歌をしながらスーツケースを転がして病院の地下に止めてある僕の車へウキウキな気分で向かった。
病院のエレベーターを使って降りよう。そう思った僕はたくさんの患者が居る廊下を使って近くのエレベーターへと歩き始めた。
「ゴホッゴホッ」
「ズーッズルズル」
廊下を歩いていると色んな方向から咳や鼻水を吸う音が耳に入ってくる。
やっぱり俺みたいな体調万全な人が来る場所じゃないよな。としみじみと思いながら歩いているとエレベーターの前に着いた。
エレベーターのボタンを押す。
今、僕がいる階は3階。向かおうとしてるから階は地下1階、今エレベーターが5階から僕の居る階まで下がってきている。
エレベーターがこちらに向かってる間に僕は作品が入ったスーツケースをジーッと直視している。作品を早く触りたい、作品に魂を戻したい。僕の頭の中はそのことしか考えられない。
エレベーターを待ちながら持っているスーツケースをじっくり見ている姿は傍から見れば完璧に変人かつ不審者だ。
「ポーン」
エレベーターが到着した音がした。
ゆっくりと扉が開き始めた。
エレベーターには白い髭がマスクから飛び出している見た目が弱々しい、いかにも体調不良と思われるおじいさんが一人乗っていた。
そのエレベーターへ乗り込む僕の他には待っている人が居なかったからエレベーター内はそのおじいさんと僕の二人だけ。
エレベーターの扉が閉じはじめる
あっと僕は急いで地下1階のボタンを押す
地下1回の他にも地下2階のボタンが光ってたからこのおじいさんは地下2階に行くつもりなんだな。
無言の空間が僕が降りるまで続く。
僕はエレベーターの天井を無意識に見上げる
「ポーン」
地下1階に着いた合図が聴こえた。
扉がさっきと同じくゆっくりと開き始める
僕は早足でそのエレベーターを降り、自分の車の停めた場所へ向かった。
えっと確かB1だったな。
あやふやな自分の記憶を頼りに車を探してウロウロしている。ここはデカくて有名な病院だからそれに伴って駐車場もそれ相応の広さだ。
光の一切差さない暗い場所で探すこと約2分見覚えのある緑色のミニバンが見える。
そのミニバン目掛け歩き始める。間近になると自分の車だった。
車のキーに鍵をさしこむ
「ガチャ」
それぞれの扉のロックが解除された。
後ろの扉を開けて持っていたスーツケースを
抱え込んで後部席の背もたれに横にさせた。
後部席のドアを閉める。
僕は運転席のドアを開けてエンジンをかけた
座った状態で首をゴキゴキと回す。
ふぅ。少し肩こりがキツイな腰もさっきから痛いしまぁでもあと少しで作品をいじれると思うとそんな感情どうでもよくなった。
そんな僕はアクセルを踏んで病院を後にした。暗い地下から外にでる。
「ポタポタポタ」
車のフロントガラスに雨が当たる音がする。
でも小雨かそんなに酷くはないみたいだな。
雨があたって水滴がついたフロントガラスを
ワイパーで弾きながら車を走らせる。
車を走らせている間は作品をどう生かすかのアイデアを考えていた。
車を走らせること体感10分、目的の場所が見えてきた。青く四角い倉庫が並んでいる。
その倉庫の近くのパーキングに車を停めた。
運転席を降り、後部席のドアを開けてまたスーツケースを外に出した。
頭に冷たい水滴が何度か当たる。まだ小雨が降っている。
傘も差さずに僕は青い倉庫達が並んでいる所へスーツケースを転がしながら向かう。
歩いてる中でさっきから悩んでたアイデアがいよいよ固まった。これはこの作品にピッタリなアイデア!
いよいよ倉庫が見えてきた。
青い倉庫達がズラーッと並んでる中で僕が契約している倉庫の外見を見つけた。
僕のは他の倉庫と区別をつける為に黄色いテープで「渡部」とデカデカと自分の名字を作って貼ってるから一目瞭然なんだ。
その渡部と貼ってある倉庫の前に着いてドアを開ける。
勿論倉庫は真っ暗だが、僕は倉庫内に木で作られてる丸いテーブルを設置していてその上にランタンを置いてるんだ。
僕はそのランタンをつけた。
つけると一瞬にして倉庫内が光に包まれ明るくなった。
僕の作品たちがその明るさで露わとなった。
おばあさんが首を折られて左の方にだらーと力なく首が倒れている。体は僕が持ってきた突っ張り棒にラップで何重も巻かれて固定してその突っ張り棒を縦にさせて強制的に立っているようになっている。
実に美しい。
その他にも
5歳くらいの女の子が僕が集めた布団の山に頭から突っ込み上半身が埋まって見えなくなっていて、下半身は外に出ている。
犬神家のあのシーンを再現したつもりだ。
とまぁ僕は死体を引き取ってもう役目を終えた死体に魂を吹き込んでいるんだ。
ここは僕のアトリエ。
この活動を始めたのはつい最近だ。
僕は昔からアートや芸術に興味があった。
でも絵を描いても周りからは下手だの、才能ないだの言われて自信を無くした。
でも僕はその道を諦めたくなかった。
そして僕は思いついたんだ絵が駄目なら誰もやってない道に行けば誰か僕の才能に気付いくれる。
そして僕は死体に魂を吹きこむ死体芸術家となった。
僕の作品たちは完成するとスマホで写真をとりそれをSNSに上げる。
一作品辺りいいねが30もつけられている。
しかも最近は作品が出来上がるごとにいいねの数も増えていてやっていて楽しい。
最高で55いいねも貰えたこともある。
僕の作品は世間に需要がある。だからいいねも増え続ける。
誰になんと言われようと僕はこの活動をやめない。
いつかはテレビに出て活躍する夢も出来た。
だから今日も作品を作る。
今日のこの死体は
指という指を全部削ぎ落として人形の指をつけてあげよう。これをSNSに上げれば
バズれるな…バズるぞ!
スーツケースのチャックを開けてひらいた。
2時44分。作品作り開始だ。
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