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2人は手を繋いで、旅の途中。
初めて訪れた田舎町の、公民館にふと立ち寄った。
町民たちの写真展があった。
幼い頃に図鑑で見つけた鳥と絵本で夢見た花が写る写真には特に胸を高鳴らせた。
素人が撮った作品たちが、思いの外美しいのは、きっと現代科学技術のおかげだ。
中でも多かったのは町民たちの家族だろう人々の写真。写る人物が違うのに、年齢順のように並べられているそれらは、不思議と1人の人間の成長記録に思えてきた。
2人は互いに微笑みかけて、写真の優しさを分け合った。
写真展の終わりに立ち、
「ねえ、これ」
「何?」
「これ、私たち?」
「嘘だ。そんなわけないだろ」
夕焼けか朝焼けか、美しい空を背景にして、穏やかな川の上に立ち、橋で抱き合う男女。その姿はあまりにも鬼気迫って見えた。
タイトルは『今際で恋ひ抱く』。
「そんなはずないよね?私たち、今日初めて来たんだよね?」
「今際って……、冗談じゃない!きっと背格好が似ているだけさ。顔だって見えないし」
「そうだね」
2人は悪寒を覚えて、思わず肩を寄せ合った。途端に、ここが暗くなった気がした。ガタガタと体が震え始め、辺りを見回す。
「それね。良い写真でしょう?」
しわがれた声がした。振り返りたくなかった。
「私が撮ったんですよ」
「あなた誰ですか」
振り返らずに尋ねた。
「この町の名所でね。観光客もよく訪れるんですよ」
「誰ですか」
「だから、カメラマンだって。この町の。これを撮った」
2人は押し黙った。
「それでね、そうそう。あなたたちはそこを訪ねましたか」
「……いえ」
「そらそうでしょうな。あなたたちはどうやってここに来たんですか」
「ここに写ってるの誰ですか」
「分かってらっしゃるじゃないですか。あなたたちですよ」
「でも私たちは行ってない」
「そらそうでしょうな」
「どうやって撮った」
「撮りたかったから」
ただ、それだけですよと不気味な笑みが聞こえた。
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