屋上のドラマ

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屋上のドラマ

「やめて……来ないで」 「お前も……なるんだ、吸血鬼に」 「いやあああーーー!」 「はい、カット!いい感じです!」 夕暮れの屋上で宗介の声に演技を終えた夏海は、幼馴染みの航太に向かった。 「本当にこれでいい感じなの?」 「いいんだよ!こんなんで」 「それよりも航太君。最後のシーンを撮ろう」 そういってカメラマンの宗介は、楽しそうにカメラを置いて小道具を取りに行った。 「しかしさ。本当にこんなのでいいの?」 「仕方ねえだろ。映画を作るって先生に言っちまったんだから」 「でも……は、ハックション!」 ヒロイン役をさせられている夏海は、航太の姉から借りたワンピース姿だったので、夕暮れの風でくしゃみをしていた。これを見た航太は、自分のジャージを彼女の背に掛けてやった。 そこに小道具係の宗介がやってきた。 「ええと、これが航太君だよ」 「へえ。上手に作ったね」 「おい、夏海。俺、こんなんかよ?」 これから屋上から落とす予定の航太の等身大の人形は同じ服を着ていたが、ボディはストッキングの中にタオルを入れたもので、髪は百円ショップのウィッグをくっ付けたひどいクオリティだったので、彼は憤慨していた。 「でもさ。暗いし、落とすんだからこれでいいよ。宗介君、大変だったでしょう」 「そうでもございません。でも、自分はこれ必死で作ったので」 そう言って宗介はこの人形を抱きしめた。 「落とすのもったいなくなってきた。ごめんよ、航坊……」 「変な名前つけんなよ?」 そんな話をしている時、夏海は台本を取り出しラストシーンを確認していた。 「ええと。吸血鬼の航太はヒロインの国語教師を仲間にしようと襲い掛かるが、女教師は左手に持っていたポーションを彼にかけ、目を潰す……」 「結構えぐいな?それになんだよ、ポーションって」 「もう時間がないので原稿のままいきましょう。さ。航太君。君はここで目が潰れた声を上げてくれたまえ。苦しそうな声で」 そんな演出家の宗介の指示で彼は声を出してみた。 「うわああ?」
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