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目に涙を溜めた夏海は自分でテッシュを取り、鼻をかんだ。
「ごめんね。演技だってわかっているんだけど。吸血鬼の顔やあの、地面に落ちたのが、あの、航太だったらどうしようと思って、不安で、私……う、うう……」
そうって彼女はふえーんと泣き出したので、彼はそっと抱きしめた。
「バカだよ。そんなわけねえだろう」
「わかっているんだけど。航太がああなったら……どうしようと思って。それで寝るのが怖くて」
「それで、寝れねえのか。お前……」
うんとうなづきながら自分の胸の中で泣く幼馴染を彼はさらにぎゅうと抱きしめた。
「大丈夫だよ。俺は俺だから」
「うん……ごめんね、心配させて……私、彼女でもないのに」
「はあ?今更、なにを言っているんだよ?あのな」
そう言って彼は彼女の前髪をかき分けた。
「好きに決まってるだろう。お前、俺と何年一緒にいるんだよ」
「へ?そ、そうなの」
「そうだよ。お前、うるさい……」
そう言って彼は彼女に初めてキスをした。彼女はじっとしていた。
「な、少し落ち着けよ」
「わかった……なんか、ホッとした」
そう言って彼女はベッドにストンと横たわった。
「なあ、お前、少し寝ろよ。あんまり寝てないんだろう、俺が付いていてやるからって、あ?」
彼女は安心した様に、航太にくっつきながら寝ていた。
「寝た?はあ、よかった……」
彼と手を繋いだ夏海は、泣き顔のままで眠っていた。
彼も彼女に寄り添って横になり、目を瞑った。
少しだけ関係が変わった二人だったが、夏海の母親が起こしに来るまで二人は爆睡したのだった。
「皆さん。それでは上映会を始めさせていただきます!」
「宗介は張り切ってるな」
「うん、監督デビューだもんね!」
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