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『やめて!来ないで……』
『お前もなるんだ、吸血鬼に』
「ひどい出来だな」
「だから言ったでしょう?あれ。貴子先生、どうしたんですか」
担当の国語教師は、うるさいと言わんばかりに集中して見ていた。
『……先生、僕は先生を愛しています。さあ、一緒に愛を、永遠の愛を……』
ガン見している女教師は、航太ドラキュラをじっと見ていた。
『先生、僕を愛しているって言ったのは、ウソですか?お願い、僕を一人にしないで……』
感情移入している貴子を他所に、ドラマはクライマックスになり、女教師役の夏海が航太と揉み合うシーンになりそうだった。
「やばい、夏海は見るな!」
「うん」
そう言って航太は夏海を胸に抱き、優しくて手で顔を押さえたが、画面の航太は真っ逆さまに落下していた。
「……終わりです」
「なんだよ?死んで終わりかよ」
しかし、貴子は拍手を送っていた。
「……よくできました。宗介君。このドラマのデータ。私にくれないかしら」
「御意に」
「勘違いしないでね。これは今後の文化祭の活動に関しての資料の参考として使用します。それと、夏海さん、上映は終わったわよ」
「あ、そうですか」
航太から離れた夏海を見た貴子は、すっと宗介を見つめた。
「これって……ドラマはまだできそうじゃない?宗介君」
これを見た宗介もすっと眼鏡を押し上げた。
「はっ!もしも、貴子先生が続編を御所望とあらば、この宗介。シナリオを書く所存でございます……」
「え?またやるの」
「もう、いいだろうが」
「まずはテストですが、今度のクリスマス会、期待しています。では」
そういって教師は退室して行った。
「どうするの。本当にするの」
「宗介。夏海は怖がっているんだぞ」
「だからです。そのトラウマを払拭する様なストーリーを僕が考えますよ?フフフ」
嬉しくて早速パソコンを開いている宗介を無視して、夏海と航太は教室を出た。
放課後の廊下は誰もいなかった。
「夏海、手」
「うん。でも面白かったね」
「そうか?まあ、いいか」
幼馴染の彼女と距離を縮めた彼は、一緒に歩きながら夕映の山々を見ていた。
二人の恋は優しくゆるやかに進もうとしていた。
FIN
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