49人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
グロリアがフォッツナー嬢に魔女の試練をしていたと語り終わると、さすがのフォッツナー嬢も若干顔色が悪くなっていた。
「うそっ!? ウソよ! あたしは聖女なんだから!? 王子様と結婚するの!」
「はぁ……。この子が聖女と結婚した王子の話が好きだったから、その話に似せて夢を見せたけど。まさかここまで本気にするとはねぇ」
私も長い魔女人生で始めてだわ。そう締めくくったグロリアはお手上げと手を上げた。
それと同時にフォッツナー嬢の固執している物語もわかった。このナライアで有名な話で小説や劇や詩になって世界中に広まっている物語で、主人公の聖女が悪役の魔女を王子と懲らしめ結婚するというありきたりなシンデレラストーリーになっている。
でも、物語自体は起伏に富んでいてとても面白い。
「魔女の試練は失敗したと判断してよろしいわね。それで魔女スキルはどうなさるの?」
「当然封印よ。この状態で持たせておけないもの」
「だ、ダメよ!? アタシは王子様と結婚するのよ! だ、だから封印なんてしないで!」
私が試練の失敗を判断して魔女スキルをどうするか訊ねれば、グロリアはあっさり封印だと話す。
その話を聞いてフォッツナー嬢は悲鳴を上げて反対する。
そもそも試練が失敗しているのだから殆どの効果は発動しなくなるのだが。
「ねえ、フォッツナー嬢……いえ、エリルといった方が良いのかしら? 貴女の知っている聖女はスキルに固執したかしら? それに結婚する為に誰かを貶めたりしたの?」
「そんな事する訳ないじゃない! そんなバカな事……あ、あたし……」
私が言葉を柔らかくして改めて語りかけると、フォッツナー嬢も自分のしている事にようやく気付いた。
「この話は終わったって事で良いですか? ローザ」
「はい、ヴィル様。今までお相手をせずに申し訳ありませんでした」
話にけりがついたと判断したヴィル様が話かけて来たので今まで空気にしていた事を謝罪した。
ヴィル様は私が1人で解決できるだろうと見守っていてくれていただけだし、もし危険なら割って入ってくれただろう。その場合、貴族に私が侮られる可能性があったけれど。
「ところでグロリア様ですね、お初にお目にかかります。私はミルラヴェール王国王太子ヴィルトヘイム・ミルラヴェールと申すます」
「これはご丁寧に。私は魔女のグロリアと申す者です、よしなに」
ヴィル様が丁寧な対応を取らなければならないほど偉業を成したグロリアは軽くローブをつまんで答えた。
「あ、あの。スカイローザさん、これ返します」
「ありがとうございます」
フォッツナー嬢改めエリルがおずおずとブローチを差し出して来たのを、私は顔がほころぶのを止めずに扇をポケットに入れて両手で受け取った。
価値としては貴族階級のものならガラクタ同然のありふれたブローチでしかないけど、ヴィル様とお忍びで出かけて買ってもらった大切なもの。
「スカイローザ、貴女がそれほど大事にしている物と気づかず持ち出してしまって申し訳なかったわ」
「良いのです、こうして無事に戻ってくれましたので。けれどこれきりにして下さいね、グロリア」
「ええ、覚えておくわ」
改めてグロリアから謝罪をもらった。
ブローチには傷1つついておらず記憶通りの姿をしていたので、釘を刺すだけで和解は成立した。
「まさかローザがこれほどそのブローチを大切にしていてくれたとは思いませんでした」
「ええ、ヴィル様との思い出の品ですもの当然ですわ。っきゃ」
ヴィル様が珍しくポーカーフェイスを崩して素の笑みで話かけて来たので、胸を張って答えると突然抱きしめられた。
グロリアが出て来た時点で勇者化は解いていたので簡単にヴィル様の胸へと倒れ込んで、突然のヴィル様の行動に困惑するしかない。
「ここ数カ月、まともにローザとまともに会えなかったのにそんな顔をされては放せなくなってしまいますよ」
私の耳元で熱のこもった声でささやくヴィル様に私も嬉しさと照れでぜったい頬が赤くなっている。
数秒そうやって私を抱きしめていたヴィル様から解放された私は顔を隠すためだけに勇者化をして能力を上げ瞬時に扇を取り出し、顔を隠した。
無駄なスキルの使い方? そんな事知りません! 私の力を私の有事に使って何が悪い!
クスクスとヴィル様の楽しそうな笑い声が聞こえ僅かに視界を作ってヴィル様に視線を向けると、扇を持っていない左手を取られ私の視界内で指先に口づけられた。
「ヴィルトヘイム・ミルラヴェールはスカイローザ・ファルナグラムを終生愛する事を誓います」
「っ!」
「愛しています。ローザ」
唐突にプロポーズまがいの言葉を言ってきたヴィル様に私は息が詰まった。嬉しさと戸惑いと恥ずかしさにさらに顔が火照る。
「わ、わたくしもヴィル様の事をお慕いしております」
恥ずかしさのあまりまたしても扇で顔を隠してしまったし、声が若干裏返っていたが返答はできた。
後に友人達に聞いた話によるとヴィル様は私との仲を貴族達に見せつけていたのでは? という事だ。
え? 外堀を埋めにきたのか。いや、とっくに埋まってるわ。
舞踏会の途中で王城にセルビアとアルビウスが私の勇者化に気がついて、飛んで来るというハプニングが起きたが事なきを得た。
ただまぁ、私の竜宝の姫という二つ名? が余計に広がったけど。
その2年後、私とヴィル様の結婚式が盛大に開かれて、私はヴィル様と結婚した。
晩年に思い返しても今世の私の人生は満ち足りたものになった。やはり愛した人と息子や娘に囲まれた人生は幸福でした。
完
最初のコメントを投稿しよう!