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夕日が水面に映る。幻影水鏡橋から眺める景色はいつもと変わらずに煌めいて見える。
橋の上で川に向かい手を伸ばす。澄んだ空気が心地良くてまぶたを閉じた。
「美里……っ!」
背後から肩を鷲掴みに引っ張られる。驚いて振り返ると幼馴染みの浩哉が。
「なにやってんだよ、危ないだろ」
「向こう側を見ていただけよ」
慌てふためいた様子の浩哉に私の方がびっくり。ここから飛び降りる様にでも見えたのかな。
泡沫の夢―― そうね、消えてしまうのもいいかもしれない。くすりと笑った私に浩哉が眉を寄せて低い声を出す。
「あんまり心配かけるなよ」
掴んでいた手が離れる。ほっとしたように微笑んで、配達途中だからとさっさと背を向ける。
ラフなTシャツにジーンズ。酒屋家業を継いで配達中の浩哉の姿を見送り私も歩き出す。
貴方のいない、この街を。
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